世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
現代社会の病弊「双子のポピュリズム」
(熊本学園大学 名誉教授)
2016.02.15
「双子のポピュリズム」が世界を徘徊している。「政治のポピュリズム」であり,「経済のポピュリズム」である。多種多様な社会的軋轢に起因する不安,不満を通奏低音に政治と経済とマスコミのポピュリズムが共鳴する。大衆に迎合するポピュリズムの横行は現代社会の最大の危機である。
「政治のポピュリズム」の端的な例は「テロ」と「難民」問題に表出している。理性と寛容を失ったポピュリズムは人間のアイデンティティにかかわる宗教,民族的差違が敵対的であるかのように思い込ませる。
日本における「政治のポピュリズム」の最たるものはマスコミが煽る平和主義パラノイア(偏執病)である。日本は「テロ」と「難民」問題から遠隔,無縁の地にあるかのごとき錯角を生じさせる。グローバリゼーションの時代に「テロ」が対岸の火事である国はない。アルジェリアでの日揮の事件を想起せよ。ひたすら自国の安全のみしか考えない国は国際的には孤立する。国際政治の厳しい現実はユートピアを許さない。血を流さずとも,せめて「血の通った」国際貢献をすることは国際社会の構成員としての義務である。
日本における「経済のポピュリズム」の最たるものは「緊縮政策」拒絶反応である。増税の先送り,年金・医療制度の改革の遅滞,金融節度を欠く日本銀行の際限のない金融緩和政策。
「金融政策」は引締めには有効でも,緩和には有効性は乏しいという,金融政策の非対称性は金融論の初歩であり,不変の真理である。したがって,不況対策としての有効需要政策は財政政策によるというのは今や理論的にも,制度的にも定着したケインズ政策の要諦である。金利がゼロの近傍に長く居座っている,典型的な「流動性の罠」の状態にあるとき,さらに金利水準を押し下げようとする蛮行は当然にも「マイナス金利」の導入へと帰結した。
「超金融緩和政策」は金融資産市場のボラタリティを大きくする。株式市場は大きく乱高下し,為替市場も変動絶え間ない。金融市場は日銀総裁の言とは裏腹に日々不透明感を深める。円安効果はプラスマイナスがあり景気回復をこれに期待するのは邪道である。円安は今や石油価格の大幅下落の企業・家計への恩恵を減殺し,「マイナス金利」は家計・預金者心理を冷え込ませている。「デフレマインド」の払拭どころか「デフレマインド」を皮肉にも進行させている。円は長期的には円高の輝きを取り戻さなければならない。
最も重要な問題は「デフレマインド」というこの曖昧模糊とした,まさにポピュリズム的経済用語である。ケインズは投資の意思決定は「アニマルスピリット」によると言った。「アニマルスピリット」という強い精神力,猛々しい用語と「デフレマインド」という神経症的で軟弱な用語はまったく似て非なるものである。「デフレマインド」とは「心配性気分」とでも言うべきものであろう。対する「インフレマインド」とは「浮かれ気分」」とでも言うべきものであろう。失業率,企業収益等の重要な指標が大幅に悪化する「デフレ」,不況には断固とした有効需要政策を断行しなければならない。物価,資産価格が急騰する「インフレ」,景気過熱には断固とした金融引締政策が断行されなければならない。
「デフレマインドの払拭」という曖昧模糊とした目標と根拠なき「2%物価目標の達成」という,中央銀行の「高貴なる義務」とは思えない目標を設定した黒田日銀総裁はマインドコントロールの自縄自縛に陥っている。「裸の王様」だという声が聞こえてくる。
中央銀行の役割は現在も,過去も,将来も通貨価値の「守護神」として資本主義経済の秩序ある,公平な舞台を整えることである。唯一,間歇的に惹起する金融恐慌に際してのみ,緊急的措置としての「非伝統的金融政策」の発動も「最後の貸手」として期待され,許容されるのである。黒田総裁の金融政策は「緊急的措置」の言わば「常態化」である。経済の体質を劣化させこそすれ力強い回復を遅らせる。「政治のポピュリズム」は選挙を政権獲得の唯一の手段とする民主主義の代償であろう。それだけに,中央銀行だけは伝統を保持し毅然とした政治からの独立性が望まれる。
「リーマンショック」は「最後の貸手」である中央銀行の「非伝統的金融政策」によって最悪の金融恐慌は免れることを証明した。「現代金融資本主義」の下では,「最後の貸手」機能が適切に発動すれば金融資産市場の全面的な崩壊は生じえない。世界恐慌も起こりえない。低成長下でも資本主義の進歩とダイナミズムは失われてはいない。21世紀に入って加速する経済社会の急激な変貌を見よ。GDP指標の意義と限界を再考せよ。
資本主義のダイナミズムに経済の変動,好況と不況は不可避である。人生におけると同様に,経済にも時々に忍耐が必要である。忍耐の時にこそ体質は強化される。「根深葉繁花咲」。
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