世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.587
世界経済評論IMPACT No.587

世界消費者市場のトレンドから探る成長市場と成長業界・企業

藤澤武史

(関西学院大学 教授)

2016.02.08

 国内消費高は各国GDPの6割から7割を占める。消費が増えなければ,企業は売上高も利益も伸ばせず,経済成長率は鈍化する一方だ。ゆえに,企業は消費者ニーズ動向を正しく把握してニーズを充足し得る商品を販売し,さらにニーズ先取り型商品の開発,生産,販売を使命とする。

 かかる問題意識の下,国際市場調査のリーディングカンパニーたるユーロモニターインターナショナル社が発表した「2016年世界の消費者トレンド予測」調査報告書を参照し,一部を引用して世界消費者市場の趨勢と更なる変化を捉えたい。その趨勢に伴って,どういった企業が減速しやすいか,逆に成長機会を得やせるかを予言してみる。

趨勢1 とらわれない消費者

 インターネット情報があふれ,製品やサービスの価格/品質/機能性がますます比較可能となったため,以前と比べて,ブランド価値や一般的な評価に拘らず,自分自身の価値観に合った商品を追い求める消費者が増えている。こうした傾向は本物志向と個客化の進展により一段と進むであろう。伝統的なブランドに強みを持つ企業や,高級品に特化している企業には逆風が吹きかねない。コストパフォーマンスを追求する消費者が増えると予想され,古くても良い物は良いとする価値観が広がれば,中古品市場の伸びが世界的に見込める。

趨勢2 時間を買う

 「時間を買う」というタームは,M&A選択の理由付けによく用いられるが,最近の消費者の購買動機にもつながる。

 利便性を追求しつつ,日常生活の各種行為を外注して生み出せる時間を「贅沢」として享受する消費者が目立つ。2000年以降,家事の時間の節約に貢献する商品の代表格に食洗機がある。最近はロボット掃除機が導入され,主婦の代わりを務める。家計に余裕があれば,ベビーシッターとか家事代行サービスに頼り,主婦らが「時間を買う」行動を優先する。自由時間が設けられ,ホテルやスパを使った「デイケーション(日帰り旅行)」がブームになりやすい。家事アウトソーシング機器およびサービス会社のみならず,日々忙しい消費者の時間活用方法を提案できる企業にも需要の裾野が広がってこよう。

趨勢3 生き甲斐のある老後

 先進国だけでなく,13億人以上の人口を抱える中国でさえ,国民の高齢化が急速に進んでいる。65歳を過ぎても,今なお精力的に働く高齢者の層は厚い。一方,健康を維持しながら「第3の人生」を謳歌する老人も少なくない。前者の消費者層を対象として,国内外旅行ブームにあやかって贅沢旅行商品を提供する旅行会社,高齢者固有の商品を開発した高級ファッションブランド企業が成功すると見られる。むろん高齢者層内で所得格差は実に大きい。後者の消費者向けに,高齢者割引商品が旅行会社,スーパーストアなどの小売企業,映画館,公共交通機関から提供され,個客囲い込みが進んでいる。加えて,実売店に足を運べない高齢者も多い点に着眼し,商品・サービスの検索から購入決定までの操作手順を簡素化していけば,優良なオンライン・ショッパーは高齢者層を囲い込める。その他,ゲーム市場が脳の老化防止に役立つとして注目を集めている。ゲームの機器とソフトといえば,若年層に売上を依存しがちなイメージがあるが,今後は高齢者向けに使いやすくて脳に刺激を与えられる新機種と新作をいち早く提供できる会社こそが生き残れよう。

趨勢4 曖昧になる性差

 男女間の意識差が年々薄まり,商品販売コーナーの中でも子供服売り場では特に男子向けと女子向けといった商品区分が意味を成さなくなりつつある。将来的に選ぶ職業や職種にも男女雇用均等法の適用や価値観の変化などで違いや差が縮まっていることにも着眼して,子供のうちから,ファッション商品とおもちゃに関して,アメリカ企業では特に売り場や商品に男女の区別を明示しない傾向が強まっている。日本でも「男子の草食化」を反映してか,いわゆるユニセックス化した商品のラインナップが充実していく気配は濃厚となろう。

趨勢5 繋がり過ぎ消費者からの脱却

 現在,世界の人口の約半分はインターネット接続環境にあり,インターネットユーザーは2016年に約30億人に達すると見込まれる。スマートフォンやPCを休みなく使い続けることによる若者および子供への身体的・情緒面への悪影響が懸念されている。それを象徴してか,アメリカでは2015年に紙の書籍が売上高を伸ばし,電子書籍は売上高が落ち込んだ。人々が「オフライン」での時間を多く求め始めた証と受け取れよう。長期的な視点で捉えれば,オンラインショッピングを媒介とした売上高に過度に依存しているインターネット先進国系企業への警鳴は止まないかもしれない。

 上記5つの消費トレンドに対処できてこそ,企業は成長を続けられGDPに貢献できると見て良い。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article587.html)

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