世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3645
世界経済評論IMPACT No.3645

欧州主要国における外食産業の現状分析と将来展望

藤澤武史

(関西学院大学商学部 教授)

2024.12.02

 欧州と言えば,フランス料理,イタリア料理,スペイン料理,トルコ料理に代表されるように,料理でも多くの外国人を惹き付けるだけの魅力に溢れている。そこで,イギリス,イタリア,ドイツ,フランス,オランダ,ベルギー,スペイン,オーストリア,ポーランド,ウクライナ,ロシア,トルコといった欧州主要12か国における外食産業の現状を分析し,将来を展望してみるとしよう。

 調査手法としては,人口統計学的データ,経済的データをはじめ,制度的要因や社会文化的要因を扱ったデータを交え,数値データを基にして統計分析を交える。こうした解析結果を踏まえ,主要国における外食産業の発展を導く機動力と阻害要因を見出し,各国に共通した因果関係が見出されるかどうかを検討してみる。

 ここでは,Euromonitorオンラインデータを拠り所とし,12か国における2017~2025年(実際値と予想推計値)を対象とし,変数間に実質的な相関関係がどの程度強く表れるかを示すため,偏相関分析を適用する。

 まず,欧州12カ国における外食費の決定因とは何か。制御変数=可処分所得なら,人口と外食費との偏相関係数=−0.180(有意確率=0.063),制御変数=人口なら,可処分所得と外食費との偏相関係数=0.666(有意確率=0.0001)と明確な違いを生む。因みに,外食に内食も加えた「総食費」の偏相関分析では,制御変数=可処分所得の時,人口と食費との偏相関係数=0.810(有意確率=0.0001),制御変数=人口とすれば,可処分所得と食費との偏相関係数=0.993(有意確率=0.00001)となる。両分析結果の相対比較により,欧州域内国で外食を頻度良くかつ豪奢にするには,可処分所得の大きさがモノを言う。

 他方,欧州12カ国における家庭内食事には人口の数が影響を増す。外食産業の発展には欧州経済の成長とそれに伴う家計の規模と伸びが肝心である。外食比率が高い国こそが外食産業の伸びを支えるのは間違いない。Euromonitorの予想データに従うと,2025年の欧州12か国における「外食費の対内食費比率」ではスペインが1.008と桁違いに外食王国を誇る。外食費が内食費を上回る数字を弾き出したのは,欧州12か国内でスペインが唯一であり,スペイン人の外交的な国民性もその数値に反映されているようだ。

 確かに,可処分所得の伸びから外食産業の成長を見通せるとしても,その国ならではの食文化の確立度や社交性豊かな国民性も外食費の数字に反映されているかもしれない。

 次に,欧州12か国における社会経済的要因も絡め,外食産業への貢献度を測りたい。

 Spearmanの順位相関係数を用いて,2007年~2021年にわたる12か国の社会経済的ならびに社会文化的な各種統計データを抽出し,有意水準が5%未満では有意な関係に入らなくても,10%未満の有意水準において相関関係にある独立変数が次のように見出せた。「補償」(compensation)は(順位相関係数=−0.566,有意確率=0.055),金融サービスへのアクセスは(順位相関係数=−0.552,有意確率=0.063),資本コストは(順位相関係数=0.522,有意確率=0.082)となる。相互に金融資本や事業資本にも関係し合い,レストラン事業の成否を占う意味でも重要な変数に違いない。偶然にも10%未満の有意水準で3つの関連変数が揃うとなれば,レストランの新規事業との因果関係は明らかだ。

 以上の結果から,次のような現象が想定されよう。いかに金融サービスへのアクセスが広範囲かつ利用は常時可能だとしても,外資系にとってはレストランの自前店よりも早い段階で国内大手チェーン店に大型進出で先行された場合,既存レストランで生じる資本コストを抑制するのは上手く行かない。外資系レストランには当該国への進出に際し資本調達コストが高く付き,借入資本の返済条件が本国企業よりも厳しい(資本コストも大)ゆえ,進出し難い。こうなれば,自国のレストランは既存店舗を過当競争から守りやすい。

 外食産業の立地数を伸ばせるような国家特殊的条件を備え,かつ容易にその条件を提供できるのであれば,外食産業の成長に陰りはないと解せる。では,かかる国家特殊的条件には何が強く求められるか。

 第1に,消費者物価上昇率の高さは外食産業を押し上げる可能性もあり得る。というのも,消費者物価の上昇途上では自国内景気の良さを感じる場面が増え,外食に目が向きやすくなるからだ。

 仮説1:消費者物価上昇率が高いと景気の良さを感じる局面が多くなり,外食する頻度が増す。ゆえに,消費者物価上昇率は外食産業売上高伸び率を牽引する。

 2007~2021年における外食産業売上高の伸び率に対して消費者物価上昇率は順位相関係数=0.783(有意確率=0.003)と,相関関係が強い。まさに,デフレよりもインフレの方が外食産業の成長には追い風となる。むろん,物価上昇はレストランのメニュー価格の高騰を生み,レストランの売上高の増加につながりやすい。他方,逆に物価高に伴い,家庭内食事へという揺れ戻しも一部にはあり得るであろう。全般的にはインフレ下でもレストランなど外食産業企業に追い風が吹く傾向がより強いようだ。

 欧州12か国におけるレジャーリクレーション支出の増加率は外食産業売上高伸び率との順位相関係数=0.846(有意確率=0.001)から見て,外食産業の成長に追い風となる。実際,レジャーリクレーションに乗り出す前後に,家族らが子供を連れてレストランへ向かい,飲食を共にする機会をよく見かける。

 IMD World Competitiveness ONLINE 1995-2022より抽出可能な人口統計データの中で消費面から見て最重要なのは「国民の非高齢化」であろう。かかる独立変数は先進国とは真逆なデモグラフィック要因に相当する。「国民の非高齢化」と外食産業売上高伸び率との順位相関係数=0.872(有意確率=0.0001)ゆえ,若い世代を増やせば外食産業の売上高に寄与すると見られ,出生率こそ最重視されるべきであろう。

 最後に,レジャーリクレーションを体験すれば,その前後にレストランへ足を運ぶ可能性が高いため,外食産業との関連は強い。順位相関係数=0.846(有意確率=0.001)ゆえに,レジャーリクレーション支出が外食費の増大を生むという関係は実に妥当視される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3645.html)

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