世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3088
世界経済評論IMPACT No.3088

COVID-19からの予測景気回復度指数分析とSVOD普及率決定因

藤澤武史

(関西学院大学商学部 教授)

2023.08.28

 第1に,“COVID-19: How Are We Adapting and Recovering?”, Euromonitor on-line data 2021. を用いて,米国,日本,EU先進国,BRICsなど世界の主要20カ国に見られるCOVID-19からの2022年第4四半期(2022年10月~12月)時点での「予測景気回復度指数影響要因分析」を試みるとしよう。まず,「予測景気回復度指数」を従属変数とし,独立変数に消費者の景気回復信頼度,消費支出額指数,経済活動指数,雇用指数,小売価格指数を採択する。次いで,偏相関分析を適用して相関係数を求め,有意な順に並べると,消費支出額指数=0.916(有意水準0.1%未満で有意),経済活動指数=0.865(同1%未満で有意),小売価格指数=0.783(同5%未満で有意)となる。消費者の景気回復信頼度=0.103,雇用指数=-0.160と2つは非有意である。ゆえに,消費支出額と小売価格といった消費の実態を最も身近に示せる要因こそ,COVID-19からの景気回復感を国家も国民も感じ取るに不可欠とみなせる。

 「経済回復度(景気回復)指数」では115.4を記録した中国が第1位,米国が110.2と続く。消費支出額指数では中国が119.3を記録して第1位,マレーシア(110.9),トルコ(110.4)と続き,110.0と微差ながら米国が第4位に位置する。

 こうしたマクロ経済分析を経て,消費実態の把握こそが景気回復の舵取りに重要な物差しとなるも同然と示唆できよう。

 かかる示唆と観点に結び付けて,コロナ禍というピンチをビジネス・チャンスに変えた世界的産業の成長寄与分析に目を転じる。「巣籠(stay at home)需要」を通じて景気回復に一役買った「定額制動画配信サービス」(Subscription Video on Demand;「SVOD」と略記)を取り上げる。

 SVODの国内販売は2021年にコロナ禍におけるホームエンターテイメント需要の高まりで前年比19.9%増の3862億円と伸び,2022年も前年比16.7%増の推計4508億円(いずれも広告収入等は含まない)と市場拡大が続いている(https://gem-standard.com/columns/673)。SVOD利用満足度を高めるには機器の充実も必須ゆえ,産業の裾野は広い。

 COVID-19がSVOD普及を促した点に着目し,主要国におけるSVOD家庭普及率と5つの普及促進決定因の関係に焦点を当てる(データの出所はEuromonitor on-line data 2021.等)。調査対象国は,データ入手可能な中国,インド,インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ,香港,韓国,日本,米国,オーストラリア,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,スペイン,オランダと18カ国に限られる。

 SVODの導入が世界初となった米国は2021年にSVODの家庭内利用率が71%と,シンガポールの88%に次ぎ,第2位。中国は家庭普及率こそ31%と第9位ながら,配信サービス市場規模では米国に次ぐ。日本は利用率が27%と低く,中国に次第10位。

 SVODに固有のビジネスモデルから見て,調査対象18カ国における「SVODの目的変数=家庭普及率」にどの要因が関係するかを解明しなければならない。COVID-19という外的影響要因を除き,①インターネット利用率,②携帯電話加入率,③世帯当たり年ベースでのクレジットカード取引額,④世帯当たりゲーム市場規模,⑤世帯当たり可処分所得,といった5つを初期条件の中で独立変数に採択する。

 単回帰分析では,サンプル数の少なさが影響して,SVOD家庭普及率との関係で有意な変数を導けない。決定係数が最大値を示したのは,0.0686という世帯当り可処分所得であり,次いで,インターネット利用率が0.0523となるが,いずれも有意でない。

 そこで,5種の独立変数の内,世帯当り可処分所得がSVOD家庭普及率との間で最も高い相関係数を示した点に着眼し,同可処分所得以外の何か1つの独立変数を制御変数に据え,偏相関分析にかけると,有意な結果が導けると想定した。実は,本試みの際,SVOD家庭普及率との間で携帯電話加入率が正・負共に相関関係が最も弱かった(相関係数=0.02,有意確率=0.939,自由度=15)点に着眼し,携帯電話加入率を制御変数に採択し偏相関分析にかけた。すると,世帯当たり可処分所得がSVOD普及率との間で偏相関係数=0.684,有意確率=0.002となり,有意水準1%未満で正の強い相関関係が得られた。ゆえに,世帯当たり可処分所得が高い国程,同国の家庭ではSVODが多用されていると解せる。世帯当たり可処分所得に次ぎ,インターネット利用率が偏相関係数=0.533(有意確率=0.028),クレジットカード取引額の偏相関係数=0.526(有意確率=0.030)がいずれも有意水準5%未満で正の相関関係にある。世帯当たりゲーム市場規模は有意確率=0.059のため,SVOD普及率への影響は限定的とみなせる。

 COVID-19が収束したからには,SVOD業界としても2020年2月から3年続いた「巣ごもり需要」に頼るわけにいかない。アウトドア志向が高まる今日,SVOD新規利用契約者の獲得は容易でない。所得の水準が低くても伸び率が高く,製品ライフサイクル上,SVODが成長期を迎える市場国に早期参入すると良い。顧客ニーズ充足型のデジタルコンテンツを矢継ぎ早に導入して顧客獲得のためPRする一方,需要の価格弾性値を予測して国別に配信料を設定すべきであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3088.html)

関連記事

藤澤武史

最新のコラム