世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.540

今,日中エネルギー協力の可能性

橘川武郎

(東京理科大学大学院イノベーション研究科 教授)

2015.11.24

 2007年10月17日,東京において,世界経済研究協会が主催する「第10回世界経済評論フォーラム」が開かれた。同フォーラムのテーマは「日中エネルギー協力の課題と挑戦」であったが,席上,基調報告を行った中国出身の郭四志(日本エネルギー経済研究所主任研究員=当時)は,次のように述べた。

 「日中エネルギー協力にはお互いの理解は重要です。中国の表現で,日本語でも言えるそうですが,『大同小異』を原則と踏まえて,摩擦を克服し,相互理解を深め信頼関係を築いて対中エネルギー事業の展開をしたほうがいいと思います。このようにすれば多分成功していくと思います」(郭四志「日中エネルギー協力の課題と挑戦」『世界経済評論』2007年12月号,10頁)。

 郭が「大同小異」をキーワードとしたように,日中両国間には,エネルギー協力を必然化するような共通の利害が存在する。それは,いずれも石油・石炭・LNG等の化石燃料の輸入国として,それらを安価かつ安定的に調達する必要に迫られているという「共通の利害」である。このような状況が生まれたのは,中国が急速な経済発展の結果,化石燃料輸入国に転じた比較的最近のことである。

 エネルギー問題をめぐって日中両国が「大同小異」の状況にあると郭が指摘したのは,2007年のことである。その後,2008年3月にはリーマンショックが,2011年3月には東日本大震災と東京電力・福島第一原子力発電所事故がそれぞれ発生したが,「大同小異」の状況に大きな変化はない。

 具体的なエネルギー協力のテーマとしては,安価かつ安定的なLNG(液化天然ガス)調達策と,省エネルギー技術の移転による地球温暖化防止策との二つをあげることができる。このうち,天然ガスの調達に関しては,日中両国に韓国を加えた東アジア3国の協力が重要になる。

 昨年夏以来の原油価格低落の影響で,現時点では一時的に目立たなくなっているが,長期的・構造的に見れば,世界の天然ガス市場は三極化しており,米国と欧州,そして日中韓を含む北東アジアとのあいだには,大きな価格差が存在する。なぜ,北東アジア諸国の天然ガス調達コストは高いのか。

 一つの理由は,アメリカでシェールガス革命が進行したことである。この結果,ヘンリー・ハブにおける天然ガスの取引価格は,劇的に低落した。

 もう一つの理由は,北東アジアの場合,欧州とは異なり,域内をカバーする天然ガスのパイプライン網が整備されていないことである。欧州市場での天然ガス価格が米国市場よりは高く,北東アジア市場よりは安いのは,米国とは違ってシェールガスの本格生産には至っていないこと,北東アジアとは違ってパイプライン網が整備されておりロシア・北アフリカ・北海など複数の供給源から天然ガスを調達できること,によるものである。

 ここで想起する必要があるのは,世界最大のLNG輸入国は日本であり,それに続くのは韓国だという事実である。また,中国も最近では,LNG輸入量を急増させている。北東アジアの天然ガス取引において日中韓3国が協力してバイイングパワーを働かせるならば,LNG調達価格の引下げは,けっして不可能な夢物語ではないのである。

 日中エネルギー協力の可能性は,安価で安定的な天然ガスの調達をめぐって存在しているだけではない。省エネルギー技術の移転による地球温暖化防止策の強化という面でも,エネルギー協力の可能性は広がっている。この面では,大量に二酸化炭素を排出する一方で,中国の電源構成において圧倒的なウエートを占めるがゆえに運転を停止することなどありえない,石炭火力発電の分野での日本から中国への技術移転が,とくに大きな効果をあげることだろう。

 このように日中エネルギー協力の高い可能性が存在するにもかかわらず,現実には協力が進んでこなかったのはなぜだろうか。エネルギー協力では政府間の連携が欠かせないが,経済ベースで協力を進める主体はあくまで企業である。にもかかわらず,日本のエネルギー企業の大半は「内向き」で国内ばかりに目を向けており,国際展開にきわめて消極的である。その姿は,次々とニューヨーク証券取引所への株式上場を果たした中国のエネルギー企業とは,あまりに対照的である。日本のエネルギー企業で,ニューヨーク上場を果たしたものはない。日中エネルギー協力が本格的に進展するための第一歩は,日本の電力会社・ガス会社・石油会社が中国のエネルギー企業をベンチマークにして,国際企業へ変身することにある。「急がば回れ」なのである。

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