世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4026
世界経済評論IMPACT No.4026

ケミカルリサイクルの拠点:レゾナック川崎事業所

橘川武郎

(国際大学 学長)

2025.10.13

 2025年6月,株式会社レゾナックの川崎事業所を見学する機会があった。レゾナックは,昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)が統合して,2023年に新発足した企業である。

 レゾナック川崎事業所は,川崎市が描く臨海部の将来構想において戦略的重要性をもつ。同構想は,臨海部での「水素を軸としたカーボンニュートラルなエネルギーの供給拠点」および「域内外の炭素を再資源化する炭素循環型コンビナート」の形成をめざしているが,レゾナック川崎事業所は,それら双方に大きく貢献する可能性を有するためである。

 川崎市臨海部の扇町地区と大川地区,および千鳥地区に立地するレゾナック川崎事業所では,合計約56万㎡の敷地に約980名の従業員が働いている。今回訪問したのは,JR鶴見線の扇町駅より徒歩1分の扇町地区の事業所である。

 レゾナック川崎事業所のケミカルリサイクル工程は「KPR(川崎プラスチックリサイクリング)プロセス」と呼ばれる。同プロセスは,①利活用の徹底により二酸化炭素を排出しない,②プラスチックを分別せずにリサイクルすることができる,③熱の再利用によりエネルギーが自己完結しており外部熱を必要としない,という三つの特徴をもつ。プラスチックのガス化によるケミカルリサイクルプロセスとしては世界で唯一商業運転に成功しており,国際的な低炭素認証制度であるIS C(International Sustainability & Carbon Certification)認証も取得している。また,2003年の商業運転開始以来すでに22年に及ぶ操業実績を有しており,豊富なノウハウを蓄積している点も,特筆されるべきである。

 このKPRプロセスは,破砕成形工程,ガス化工程,精製工程,およびアンモニア製造工程,の4工程からなる。当日は,この工程順に従って見学した。

 破砕成形工程では,使用済みプラスチックから異物を取り除き,破砕したあと,プラスチックの固まりを作り出す。破砕機,金属選別機,成形機が配置され,成形機については,処理量200トン/日の機械が2台設置されていた。

 ガス化工程では,蒸気と少量の酸素を用いて熱分解や部分酸化を行い,プラスチックの固まりをガス化する。また,精製工程では,ガス化工程で生成されたガスから不純物を取り除き,水素と一酸化炭素を主体とする合成ガスを作る。これらの工程では,加圧二段式ガス化炉が使われおり,600℃の低温ガス火炉では金属やガラスが,1400℃の高温ガス化炉ではスラグが,それぞれ炉底から回収される。一対のガス化炉が空に向かって屹立している姿は,壮観であった。

 高温ガス化炉で生成される水素と一酸化炭素は,CO転化装置で水素と二酸化炭素に転換される。これらのうち二酸化炭素は,炭酸飲料用,ドライアイス用,植物促成栽培用などに販売される。

 一方,水素の多くはアンモニア製造工程に原料として送られる。そこで水素と窒素を化学的に反応させて製造されたアンモニアは,脱硝用に火力発電所に外販されるほか,化学製品の原料として外販および自家消費される。

 このようにKPRプロセスは,見事に自己完結している。しかし,将来的には水素発電やメタノールtoオレフィンへの展開も考えられ,そうなれば川崎臨海部におけるレゾナック川崎事業所の戦略的価値は,さらに高まるだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4026.html)

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