世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3788
世界経済評論IMPACT No.3788

日本の景気も先行き不透明

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.04.07

輸出と政府消費支出が景気拡大を牽引

 日本経済は,2020年5月を景気の谷にして拡大期にあります。2024年10-12月期には,実質GDPはコロナ禍前のピークであった2019年7-9月期を2015年価格ベースで4.3兆円,率にすると0.8%上回りました。需要項目別に見ると,2015年価格ベースで2019年7-9月期を輸出は10.2兆円,政府最終消費支出は9.1兆円上回りました。これに対し,民間最終消費支出は5.3兆円,民間住宅は2.5兆円,民間企業設備は0.6兆円下回りました。輸出と政府最終消費支出が景気拡大を牽引してきた一方,民間国内需要の回復が遅れていることがうかがわれます。

トランプ関税前の駆け込み輸出増

 日本銀行が公表している月次の季節調整済み実質輸出は,コロナ禍初期の落ち込みから2021年前半にかけて急回復した後,概ね横這いで推移していましたが,昨年末から増勢を強めています。直近値である今年2月には前月比10.4%増,前年同月比14.5%と大きく増加しています。これは,昨年11月の大統領選で勝利したトランプ大統領が関税引き上げの方針を示してきたため,関税が引き上げられる前に駆け込み的に輸出が増大したことによるようです。

 トランプ関税が実施に移されると,駆け込み輸出増の反動もあって,輸出は急減するでしょう。日本経済は,これまでの景気拡大の原動力を失う懸念があります。

賃上げのもとでも暮らし向きは悪化

 GDPの50%以上を占める民間最終消費支出は,上で述べたように回復が遅れていましたが,2024年4-6月期から実質ベースで3四半期連続して前期比増となりました。雇用の増大,賃金の上昇や昨年の所得・住民税減税が消費支出を押し上げたようです。ただし,24年4-6月期,7-9月期には前期比年率換算値でそれぞれ+3.1%,+3.0%と堅調な伸びを示したものの,10-12月期には+0.1%とごくわずかな伸びに留まりました。

 消費者マインドを調べる消費動向調査によれば,直近値の2月には総世帯ベースで雇用環境を示す指数は39.6,収入の増え方の指数は39.0と,2021年1月以降のそれぞれの平均値37.8,38.0を上回っています。一方,暮らし向きを示す指数は30.9,耐久消費財の買い時判断の指数は26.8と,21年1月以降の平均値33.5,30.4を下回り,足元での低下は顕著です。食料やエネルギーなどの生活必需品の物価上昇の影響が大きいと考えられます。生活必需品は購入頻度が高い上に,物価が上がっても消費量を減らしにくいため,家計の負担感が強くなっているようです。全体的な消費者マインドを示す消費者態度指数は,2月には34.1と21年1月以降の平均値34.9を下回った上に,足元で低下傾向にあります。実質民間最終消費支出が再び減少に転じる公算が高まっています。

 3月31日付の本コラム「暗雲漂う米景気の行方」では米国の景気が悪化する見込みを示しましたが,日本の景気の先行きもかなり怪しくなっています。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3788.html)

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