世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国経済は日本の二の舞になるのか:2035年にハイレベル「デジタル中国」の構築
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.11.03
拡大する国内民間部門の貯蓄余剰
10月14日公表のIMF世界経済見通しによれば,中国の実質GDP成長率は2025年の+4.8%から26年には+4.2%,30年には+3.4%に低下すると予想されています。
IMF世界経済見通しのデータベースを用いて,中国の一国全体の貯蓄投資収支を示す経常収支から一般政府の財政収支を引くことで国内民間部門の貯蓄投資収支を算出すると,そのGDP比は,2011年には+1.9%から貯蓄余剰幅が拡大し,2025年には+11.9%になると見込まれます。貯蓄投資収支は所得と支出の収支に等しく,貯蓄余剰の拡大は,国内民間部門の需要不足の拡大を意味します。一方,一般政府財政収支のGDP比は,2011年には−0.1%とほぼ収支均衡状態にあった所から赤字幅が拡大し,2025年には−8.6%になる見込みです。一般政府総債務のGDP比は,2011年の33.2%から2025年には96.3%に拡大する見込みです。財政政策による景気の下支えを続けてきましたが,大幅な財政赤字が続き政府債務が累増していることで,これ以上財政刺激策を続けることが難しくなりそうなことが,中期的な成長率鈍化の見通しにつながっているようです。
日本の2000年前後に似た状況
日本についても同様にして経常収支と財政収支から国内民間部門の貯蓄投資収支を算出すると,民間貯蓄余剰と財政赤字の拡大という現在の中国の姿は,2000年前後の日本の状況と似ています。日本ではバブル期終盤の1990年には国内民間部門の貯蓄投資収支のGDP比は−0.6%と若干貯蓄不足であったものが,2000年には+9.9%と大幅な貯蓄余剰=需要不足となりました。一方,一般政府の財政収支のGDP比は同時期に+2.0%の黒字から−7.3%の赤字へと転じました。
日本の実質GDPは,バブル期の1987~1990年には平均5.3%で成長しましたが,バブル崩壊と共に成長率は大幅に低下し,1998~2002年には平均0.3%の成長に留まりました。実質GDP成長率のトレンドはその後大きく変化せず,2003~2025年の平均では0.7%となっています。
投資比率は依然高く,過剰投資は未解消
中国の現状が2000年前後の日本と似ているならば,中国の実質GDP成長率は現在の4,5%からさらに鈍化しないようにも思われます。ただ,総投資のGDP比を見ると,日本では1990年の35.5%から2002年には25.9%まで下がり,バブル期以前の1983~86年の平均31.3%と比べても低くなりました。その後は概ね25%前後で推移し,2025年は26.5%となる見通しです。日本では2000年代前半までに過剰投資が解消され,経済成長率と投資水準とのバランスが取れた均衡状態になったと考えられます。それに対し,中国では総投資のGDP比は2025年には38.8%の見通しであり,ピークであった2011年の46.6%より下がったものの,投資が急増する前の1998~2002年の平均35.0%を上回っています。この間の経済成長率は平均+8.4%であり,現在の経済成長率がそれを下回っているのに投資水準が当時より高いという点では過剰投資が解消されておらず,総投資のGDP比が今後さらに下がることが予想されます。
日本では,外需の改善がある程度景気を下支えしてきました。経常収支のGDP比は,1990年の+1.4%から2007年には+4.6%まで黒字幅が拡大しました。リーマンショック後の世界景気の悪化で2014年には一旦+0.8%まで縮小したものの,2024年には+4.8%まで再拡大し,2025年も+3.9%の黒字が見込まれています。中国でも経常収支のGDP比も2018年の+0.2%から2025年には+3.3%へと黒字が拡大する見込みです。ただ,米国が関税によって輸入を抑制する中,米国以外の国が中国からの輸入を今後さらに増やすことは難しいでしょう。国内投資水準の低下による内需低迷のはけ口を外需に求められず,財政による景気下支えも困難になれば,実質GDP成長率が中期的に3%台に下がるというIMFの見通しをさらに下回る落ち込みになりそうです。その過程で経済・金融危機が生じる可能性も否定できません。中国経済は,2000年前後の日本より厳しい状況にあるようです。経済大国である中国経済の失速は,世界経済全体の成長率の大幅な鈍化を招きかねません。
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