世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
世界経済のグローバル化は止まるのか
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.12.09
リーマンショック以来,世界貿易量が鈍化
11月18日付の本コラム(No.3623)「なぜトランプ氏は勝利したのか」では,米国の輸出入や海外との所得受け払いのGNP比は,リーマンショック前後で頭打ちとなったことを指摘しました。世界経済全体で見ると,世界の財・サービス貿易量の増加率は,リーマンショック以前には実質GDP成長率を上回ることが多かったものが,リーマンショック以降は概ね実質GDP成長率並みに留まっています。IMF世界経済見通しのデータベースによれば,1980年から2007年までの世界実質GDP成長率は,年平均3.5%,財・サービス貿易量の増加率は6.2%でした。一方,2008年から2024年までの期間では,GDP成長率は3.1%,財・サービス貿易量増加率は3.0%です(2024年はIMFによる推計)。こうした点では世界経済全体としても,10年以上前からグローバル化にブレーキがかかっているように見えます。
低下が続く先進経済GDPの世界シェア
米国,EU,日本のGDPの世界シェアは,長期的に低下傾向が続いている一方,新興・発展途上経済のシェアは上昇傾向にあります。上記のIMF世界経済見通しのデータベースによれば,2000年時点の米国のGDPの世界シェア(購買力平価換算ベース)は20.5%,EUは21.7%,日本は6.7%でした。IMFによれば,2024年にはそれぞれ15.0%,14.4%,3.4%に下がる見通しです。さらに2029年にはそれぞれ14.3%,13.4%,3.0%に下がると予想されています。これに対し,新興・発展途上経済のシェアは2000年の41.7%から2024年には59.8%へ,2029年には62.5%へと上昇すると予想されています。先進経済に成長の限界が見える中,先進経済の企業は,新たな成長機会を求めて,新興経済に向けた直接投資を増やし続けるでしょう。
新興経済の財政収支の悪化と過剰投資
ただ,新興・発展途上経済にもかつての勢いはありません。新興・発展途上経済の実質GDPは2004~7年には平均7.6%と高い成長を記録しました。しかし,リーマンショック後の2010~13年には5.9%,コロナ禍前の2016~19年には4.4%に下がりました。2024年は4.2%と予想されています。経済成長率の鈍化につれて財政収支は悪化しています。一般政府の財政収支のGDP比は,2008年には+0.6%でしたが,2014年には-2.4%,2019年には-4.4%となりました。2024年には-5.6%となる見通しです。また,経済全体の投資額のGDP比は2000年の23.9%から2011年には32.0%まで上昇しましたが,そこからは概ね頃横ばいで推移しており,2024年も32.0%の見通しです。実質GDP成長率が下がる中で投資のGDP比率が横這いに留まっていることは,投資効率の低下を示唆しています。財政刺激策などによって高い投資水準を維持してきたことで,結果的に投資過剰状態を招いていると考えられます。
これ以上財政刺激策を続け,投資を増やして需要拡大を図ることには無理があり,新興・発展途上経済の成長率の低下トレンドが続きそうです。そうした中では,新興・発展途上経済の企業も,新たな市場を求めて海外へ進出することの必要性が増していると言えます。保護主義の高まりによって貿易量の伸びは鈍っても,国境を超えた企業活動の拡大が続く点では,世界経済のグローバル化は止まらないでしょう。
もちろん,グローバル化は環境破壊,格差拡大,外国人労働者流入による社会的摩擦,既存の産業・雇用の衰退,租税回避,国際的犯罪などを招く面もあり,手放しに歓迎できません。ただ,新型コロナの世界的大流行を見てもわかるように,社会全般でグローバル化が進む中で生じる諸問題を,一国だけで解決できないことは明らかです。国際的経済活動に規制をかけるためには,政治面でも国際的な協力が必要になります。トランプ流の米国第一主義は,米国自身にとっても望ましい結果をもたらすものにはならないでしょう。
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