世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
何故,自民党総裁選で日米関係が本気で議論されないのか?
(白馬会議運営委員会事務局 代表)
2024.09.16
今,自民党総裁選挙たけなわである。9月27日に新総裁が決まり新たな首相となる。来年は対米敗戦80周年だが,その年に両国のトップが同時に変わる。80年というのには不思議な響きがある。マッカーサーが厚木に降りたった1945年から日本の戦後レジューム,はっきり言えば「敗戦後レジューム」が始まった。時をさらに80年さかのぼれば幕末日本の風景が広がるが,そこに超然と立っているのが黒船来航のペリーだ。正確にはペリー来航は1853年で江戸幕府崩壊より10年程早いが,彼の登場により日本近代化の導火線に火がついた。ペリーを通して知ったアメリカは西欧文明の玄関口であり,羨望・崇拝の対象であると同時に強大な文明力を有する恐怖・警戒すべき存在であった。このアメリカを学習相手に日本は尊敬・協調の関係から熾烈な競争関係を形成していくことになるが,太平洋戦争で激突し叩き潰されることになる。
ペリー以来の日米関係を1945年に大転換させた強面(こわおもて)のアメリカンヒーローがマッカーサーだった。当時の日本人はこの占領軍の最高司令官をペリー以上に畏怖し,恐怖したに違いない。彼が率いたGHQ(General Headquarters:連合国総司令部)は日本に徹底した被占領国体制を築いた。それから80年,今度はトランプというなんとなくペリーやマッカーサーと同様の雰囲気を醸し出すタフガイが日米関係の大転換を招来するのではないかという不気味さを漂わさせている。
トランプの再登場(未だ???をつけるべきだが)で日米関係はどう大転換するのか? ホワイトハウス一期目の時も様々な議論,憶測が飛び交ったが,「敗戦後レジューム」の観点から見た大転換の最大の焦点は在日米軍の規模縮小さらには全面撤退の可能性だ。この議論の根底には従来よりアメリカ側の費用負担への根本的な不満があったが,最近の動きにはトランプ周辺の中国の脅威に対する評価の見直しがある。今,中国経済は鄧小平以来の社会主義市場経済システムの構造的ボトルネックに直面しており,GDPで早晩アメリカを抜くという議論は影を潜めてしまった。そのうえ移民大国アメリカの人口成長力にも少子高齢化に喘ぐ中国は全く突き放されてしまった。「中国恐れるに足らず。」であり,その隣国日本にアメリカの兵器と兵士を置き続ける意味が果たしてあるのか。トランプのみならずアメリカ国内にそんな疑問が生まれて来てもおかしくない。
一方,アメリカに敗北し占領されてから80年間,延々と彼らの軍隊を国内に駐留させ続けた日本側には在日米軍と,その基本となっている日米安全保障条約についても,いつも吸っている空気のような感覚が蔓延し違和感も反発もなくなってしまったのであろうか?驚くべきことに,今回の自民党総裁選挙に9名ものの立候補者が出てきたが,彼らの討論の場で日米関係が殆ど話題になっていない。安全保障問題についても何故かマイナーなテーマになってしまい,憲法9条への自衛隊明記に言及している候補は9名中5名しかおらず,その中でより戦略的な議論をしているのは石破茂氏のみだ。只,それも東アジアにおける集団安全保障がらみの議論で日米安全保障条約自体に食い込むようなものではない。
「占領軍をこちらから追い出すわけにはいかない。追い出す度胸も展望も自信もない」。これが,「敗戦後レジューム」の忠実な協力者であり続けた自民党政治家たちの本音であったのではないか。但し,日米安保条約を廃棄する手立てはびっくりするほど簡単だ。日米いずれかの締結国が宣言すれば1年後には自動終了する。日本の場合,外国との条約法案は衆議院での過半数議決で処理される。憲法改正のように三分の二の国会議決の上,国民投票での過半数承認というようなハードルの高いものではない。その気になれば現在の自公政権でも可能だ。しかし,日本共産党以外,安保条約廃棄を明示している政党はない。日米関係の最初の80年が友好から猜疑・恐怖そして激突の時代であったとすれば,2回目の80年は「敗戦後」が延々と続いた「対米従属」の時代であった。そのアメリカが相対的に日本へのコミットを後退させ始めているとすれば,「占領軍」は追い出すまでもなく自ら去り,アメリカの過剰な関与を希薄化させることになる。このあたりの「トランプ・ショック」を今回の自民党総裁候補の中で予想し覚悟している人物は果たしているだろうか? 数年先,彼らの中の誰かがその対応と決断を迫られる日本国総理大臣になる可能性は決して非現実的ではない。その辺を来る11月16日~17日開催の第17回白馬会議で徹底討議したい。
*企画詳細・参加申込⇒(白馬会議公式サイトへ)。関連記事
市川 周
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