世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国の再エネとAPECの脱炭素化の取組
2024.09.16
近年,毎年のように世界各地で「記録的な暑さ」が観測され,日本でも,今年35℃以上の猛暑日が30日以上となった地域があり,熱中症による健康被害をめぐる報道も頻繁に目にする昨今である。「百年に一度」,「数十年に一度」,「観測史上初」と表現される大雨が世界各地で発生し,こうした異常気象は常態化しつつあるといっても過言ではない。我々の生活はすでに地球温暖化による気候変動の影響を受けているのであろう。
地球温暖化の原因となっている温室効果ガスには様々なものがあり,中でも二酸化炭素は温暖化への影響度が最も大きい。化石燃料は世界経済の発展を支える重要な役割を果たしてきた。一方,化石燃料の使用による二酸化炭素の排出量の増加は地球温暖化を引き起こす原因にもなっている。地球温暖化による気候変動の悪影響を回避し,持続可能な発展を達成させるためには,世界規模でのエネルギー構造の転換が求められる。すなわち,エネルギーの脱炭素化が不可欠である。
世界で最も二酸化炭素を多く排出している国は中国である。その排出量は世界全体の約三割を占める。中国では,石炭の埋蔵量が豊富で,石炭は常にエネルギー供給の中心的な役割を担ってきた。しかし,こうした状況が変わりつつある。中国では,近年,積極的にエネルギー供給部門,とりわけ電力部門の脱炭素化を推進している。国際エネルギー機関(IEA)によると,2023年の世界における再生可能エネルギー(再エネ)発電設備の新規容量は510GWに達し,その半分以上が中国によるものであった。さらに,今後5年間(2024年〜2028年)で,中国の再エネの設備容量が過去5年間と比べて3倍となり,世界設備容量拡大の約60%を占める可能性があると予測されている。中国国内の電源別発電設備容量を見ると,2023年末の時点で,再エネ発電設備容量は総発電設備容量の50%を占めており,初めて火力発電を超えた。電源別電力供給においては,火力発電が依然として6割以上を占めているが,再エネは中国の主力電源になる時期はそう遠くないという観測もある。
一方,8月にペルーのリマで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)のエネルギー大臣会合においては,脱炭素化に向けた共同声明が採択された。環境分野を巡って参加メンバー間で意見の隔たりがある中,9年ぶりの共同声明の採択となった。前回2015年にフィリピンで開催された同会合では,エネルギー安全保障や持続可能な発展を促進する上で,エネルギーの強靭性が重要であること等が共同声明で確認されたが,今回は,低炭素型のエネルギー開発,さらには水素エネルギーの活用を含めたカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出と吸収を均衡させて,排出量を実質的にゼロに抑えるという概念)の推進が宣言された。中国および米国といった温室効果ガスの大きな排出源をメンバーとするAPECにおいても,大筋においては脱炭素化への気運が高まっており,それは企業の脱炭素化への取り組みに直接・間接の影響を与えるため,APECの首脳会議レベルにおいても,より踏み込んだ宣言内容が発出されることを期待したい。
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