世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3530
世界経済評論IMPACT No.3530

エネルギー政策と地球環境政策の見直しが問われる

武石礼司

(東京国際大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2024.08.19

日本と世界のエネルギー政策の最大課題

 日本のエネルギー分野において,実現が難しいとして最大の課題となっているのが2030年時点で2013年度に比べて温室効果ガス(GHG)排出量を46%削減するとの目標である。日本政府は,2050年にカーボンニュートラルを実現する国際公約を持つ。

 本年2024年において,日本政府はエネルギー基本計画の見直しを進めているが,2030年に46%削減という目標は,分母に当たる総エネルギー予測消費量,および総電力予測消費量が2030年において省エネにより削減されている状態を前提として,削減が達成できるとの計画を設定していた。

 ところが電力消費量は,昨今,増大を始めており,データセンターの建設が相次ぐこと,5G携帯の普及が始まること,CO2排出の削減を各企業が求められるために,CO2を排出する石油等の燃料燃焼を減らし,電力消費を増大させる転換が進められており,こうして電力消費量の増大が今後も進むと予想されるようになっている。

 こうした状況から日本のエネルギー関係者からも,厳しい1.5℃目標をあくまで追い求めることは,日本においては無理で,そのまま目標を維持することは製造業の総崩れを意味してしまうとの主張がなされている。世界的に見ても,1.5℃目標の達成は,特に途上国においては先進国からの資金供与頼みであり,全く無理となっている。このため,当面は,2℃目標を目指すことにすべきであり,日本においても,46%削減をいったん棚上げすべきだとの主張もなされるに至っている。

途上国の立場

 発展途上国のエネルギー消費の状況を見ると,中国,インドを始めとして,石油,天然ガス,さらに石炭の消費量が増大を続けており,CO2排出量は増大を続けている。途上国がまず求めているのは,自国の経済発展と国民の所得向上である。COP会議の場でも,途上国は一致団結して,OECD諸国から資金援助があれば再生可能エネルギーの導入によりCO2排出量の削減にとり組むと述べている。自国の所得増大を妨げてまでCO2削減に取り組むことはないとの立場をとっている。

2050年目標の再考

 そもそも2050年のカーボンニュートラル目標はCO2濃度上昇による地球の温度の急上昇の可能性回避の観点から要請された。しかし,科学的知見が深まるとともに,前提条件の見直しの必要性も提案されている。

 気候モデルの前提とされる太陽定数(solar constant)が一定との前提への疑問で,この数値が大きく変化してきた可能性を述べる論文も出されている(W. Soon et.al, 2023, 堅田2023)。

 太陽定数は,地球が太陽から受けている面積当たりのエネルギーであり,わずかに周期的な変化をするもののほぼ一定の数値であるとされてきた。

太陽から受けるエネルギー量が一定であるとすると,地球が温暖化した際にその影響は,太陽以外の別の要因,即ち温室効果ガス排出によるとして,温室効果ガスの排出量をゼロとすべきとしているのが,IPCCの評価であり,COP会議での決議の中心テーマである。

ヒートアイランド現象への取り組みと国土計画の必要性

 都市部での温度上昇はヒートアイランド現象と呼ばれるが,都市が巨大化するとともに温度上昇は,特に夏季において高まっている。人口が増え,集住することで,膨大な排熱が出され,IPCCが集める気温データ(都市部に測定場所が多い)の上昇を招いているとの声も出ている。

 気象庁の1945年以降の気象データを見ると,日本近海の海水面の温度上昇が約1度であるのに対して,3大都市圏(東京,大阪,名古屋)の温度は約2.5℃上昇しており,大都市圏のヒートアイランド現象が顕著に生じている。

 日本の大都市の夏季の温度上昇は,欧米の主要都市と比べても大きく,また,日本の大都市では顕著に夜間の温度が下がりにくくなっている。これは東京圏のように世界最大の3,500万人が東京圏に集住していることが大きい。都市が拡散(スプロール化)し,風の通り道が確保されず,森を都市内に維持することもできないなど,都市計画の不足によると考えられる。

 大都市機能を地方に分散させるとともに,大都市域における放熱を有効利用するなど,都市を快適に活用する日本全体に及ぶ計画を考えていくことこそが,日本における地球環境問題およびエネルギー問題の第一歩であると言える。

 そもそも,日本においても都市は,平城京,平安京を始めとして計画的に作られるものであり,江戸,大阪,名古屋などの都市は皆,計画されて場所が設定され,治安と商業,水運,資源循環などが考えられて最適規模が維持されたものであった。

 CO2排出削減に補助金を積み増すより,日本が取り組むべき課題は国土の将来の在り方の立案にこそあるとの理解が必要である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3530.html)

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