世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3494
世界経済評論IMPACT No.3494

TSMCの足もとで:九州にどんな効果をもたらしたのか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2024.07.22

 2024年2月24日,台湾積体電路製造(TSMC)の運営子会社JASMが熊本県菊陽町に建設した熊本第1工場の開所式が行われた。同工場は,米国のアリゾナ工場よりも約1年遅れて着工したが,これより早く落成し操業を開始した。熊本県の関係者は,「24時間3交替のフル回転で建設にあたり,予定よりも早く完成した」と述べたが,期せずして日米2国における事業環境の違いが浮き彫りになった。

 熊本工場に派遣されたTSMCの技師は約400名であり,それに帯同家族を入れると約1000人が九州に居住するようになった。九州経済調査協会では,2021年からの10年間にTSMCが九州にもたらす経済効果を約22兆円と予測する。九州シリコンアイランドは台湾によってどのような変化がもたらされるのか。本稿では食文化に着目し「台湾グルメ」の視点から考察したい。

台南市長とイオン九州社長の友好交流MOU締結

 6月1日にイオンモール熊本で行われた「台湾フェア」の開幕式に黄偉哲台南市市長が出席し,イオン九州の中川伊正代表取締役社長と友好交流に関するMOU(基本合意書)を締結した。同式典には木村敬熊本県知事,鍋田平嘉島町長等も列席した。黄市長は「台湾フェア」の開催は,観光を含めた相互交流を促進し,将来的には九州物産の台湾での流通も期待できるなど双方にとって大変良い試みだ。また,台湾では季節ごとに,マンゴー,ザボン・文旦(ブンタン)などのフルーツが次々と収穫される。こうした機会を通じて台湾産フルーツの国外市場開拓を一歩一歩進めることができる」と述べた。同フェアには77品目にのぼる台湾物産が持ち込まれ,多くのメディアも取材に訪れた。

 2020年に“政治的要因”から中国政府が台湾産パイナップルを禁輸して以降,国外市場への販売が行き詰まっていた。しかし,故・安倍元首相のイニシアチブにより,2021年と2022年に台湾産パイナップルの対日輸出量は約1万7000トンへ急拡大,2023年でも1万5000トンを記録し,日本が中国に替わって最大の台湾産パイナップルの仕向地になった。外見だけでなく,農薬検査など対日輸出のハードルは極めて高く,市場参入は困難なことが知られているが,今日では台湾産パイナップルの輸出量は実に85%が日本向けとなるに至った。

 イオンモールでは,台湾産タピオカを使った「タピオカミルクティー」が冷蔵棚に並び,消費者の人気を集めている。幼い子連れの主婦は「これまで食べてきたタピオカは歯ごたえがあったが,台湾産タピオカは柔らかく,子供にも安心して食べさせることができる」という。また,別の消費者は「台湾産のパイナップルは大きくて非常にジューシーで,値段も手頃でお買い得感があり,いつも購入している」とし,評判が良い。とりわけ台南関廟産のパイナップルは皮が薄く,果汁が多く,芯まで食べられると評判だ。

 “フルーツ王国”と呼ばれる台湾では,四季折々にマンゴー,レイシ,バナナ,パイナップル,釈迦頭(アテモヤ,バンレイシ),蓮霧(レンブ),楊桃(スターフルーツ),番石榴(グアバ)などの果物が市場に出回り,まさにフルーツの宝庫である。

 また,イオンモールの食品コーナーにはアテモヤ(鳳梨釋迦)やバンレイシ(釈迦頭),マンゴーなどがカットされ冷凍販売されている。冷凍することで新鮮な状態を保つことができ,日本の消費者からも歓迎されている。

 「冷凍果物は食感を変えて,ジュースにしたり,デザート用に加工して楽しむ消費者が多いが,食べごろのフルーツをそのままで味わうことをお勧めしたい」,「パイナップルやその他の台湾産フルーツは品質が良く,その他の食品も今後日本で取り扱いが常態化するだろう」とイオン九州の「台湾フェア」開催担当者の江口弘明企画部長は述べる。

 イオン九州傘下の300店舗のうち,中・大型店舗である58店舗で,今回の「台湾フェア」で紹介された物産を購入するができる。フルーツ,カップ麺,スナック菓子,八寶粥(8種類の穀物を原料とする甘いお粥),阿里山産烏龍茶の葉,台湾人が幼い頃から馴染みの黒松沙士(ドクターペッパー(Dr Pepper)のようなハブ入り炭酸飲料),蘋果西打(アップル・サイダー)などの缶入り清涼飲料のほか,台湾の本格的な魯肉飯(ルーロー飯:甘辛いタレで煮込んだ豚バラ肉をご飯に盛りつけた台湾屋台飯の定番),乾麺(台湾パッタイ)などの弁当,台湾最南端屏東で捕れたまぐろのお刺身盛り合わせなどが所狭し並んでいた。

 前出のイオン九州の中川伊正社長は,「フルーツと生鮮食品の一部は日本では見慣れないものだが,品質が大変良い。今後仕入れ担当のスタッフが台湾を視察し,更に良質の加工品やスィーツを開拓したい」,「九州と台湾の間には毎月約40万人の人々が往来しており,ビジネス交流は大変盛んだ。台湾産の食品消費も今後更に増えることが見込まれる」と述べる。イオン九州の「台湾フェア」の期間はわずか4日間であったが,多くの商品で商機を見出すことができ,今後,長期にわたり台湾グルメが楽しめそうだ。

 TSMCの熊本第1工場は,予定では台湾からの駐在スタッフを含め1700名の従業員が就労し,周辺には台湾人が集まる“町”が形成されつつある。TSMCの駐在員が故郷の味を楽しむことができる本格的な店も軒を連ねることになるだろう。「TSMCの駐在員とその家族の方々,また台湾グルメを試したい日本の方々にも十分な品備えで対応したい」(前出のイオン九州江口弘明企画部長)。

災害義援金の友情からビジネスへ

 近年,「台湾フェア」は各地で行われてきた。筆者在住の福岡でも7月23日~29日に大丸福岡天神店の本館8階で「台湾フェア:你好!台湾展」が開催される。ポスターやネットの写真から確認できた料理と食材はざっと次のようなものである。「小籠包(蒸籠蒸しにした肉まん),鶏排(ジーパイ,台湾風スパイシー唐揚げ),ねぎ餅(ネギ入りクレープ巻き),香腸(台湾風ソーセージ),大根貢丸湯(肉団子スープ),大根餅,鍋貼(焼き餃子),彰化肉圓(肉団子),台湾ご当地弁当などの夜市メシ」。また,「微熱山丘(サニーヒルズ)と1905年創業の老舗・中外餅舗のパイナップルケーキ,台湾甜商店のタピオカ入りミルクティー,仙草ゼリー入りミルクティー,台湾カステラ,洪瑞珍のイチゴサンドなどのデザート・スィーツ,黒糖タピオカラテや阿里山特産烏龍茶,ドライ金柑,嘉義県特産品等々」。いずれも台湾の自慢の味の数々だ。

 今年1月の能登半島地震後,台湾から25億円の義援金が被災地に届けられた。他方,4月の台湾東部で発生した花蓮地震では,イオン九州が緊急支援募金活動を行い,1,787万2,523円が被災地に贈られた。2011年の東日本大震災,2016年の台南地震,熊本地震から能登半島地震と花蓮地震に至るまで,日台双方は民間・政府共に相互に応援し合ってきた。

 観光庁の統計によると,2023年の日本の観光収入は5兆円余りであった。このうち,台湾からの観光客の消費額は7,786億円で,国別の一位となっている。「台湾フェア」の開催も日台友好の証と言えるだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3494.html)

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