世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3462
世界経済評論IMPACT No.3462

中国:新型都市化政策のその後

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2024.06.24

 2013年の全人代後の記者会見で李克強前首相が「人」の都市化行う方針を示して以降,2014年に『国家新型都市化計画(2014-2020)』が発表され,都市化を推進する方針を示した。新型都市化計画の評価の詳細は岡本(2022a)に譲るが,2020年に中国の都市化率は目標どおり60%を超えることができた。その後,新型都市化という報道は下火になり,一連の政策ブームはピークを越えたように見える。

 本稿では,その後の都市化政策を追いかけ,中国の都市化は農村を重点とするものに移行してきていることを示す。

 『国家新型都市化計画』の最終年である2020年4月,計画を統括する国家発展改革委員会は「2020年新型都市化建設と都市農村融合発展の重点任務」を発表し,それ以降2021年,2022年と同じタイトルで都市化の政策方針を打ち出した。それまで,この施策の名称は「新型都市化建設の重点任務」であったことを考えると,都市・農村の融合と発展という言葉が含まれたのが特徴的である。

 この重点任務(2020年)に「県城(農村を代表する県の中心部)を重要な担い手として新型都市化建設を行う」という文言が新たに追加された(2021年にこの文言は一度消えている)。2020年は新型コロナが発生した年であり,その対策にあたっては県城の衛生インフラの脆弱性の克服が指摘されていた。2022年の重点任務は具体的に以下を指摘する。①経済条件のよい県城の発展を支援すること,②公共サービス施設を改善し県と村の機能的な連結と補完を促進すること,③適格なプロジェクトを支援すること,④120の県城建設模範区を支援し,20の県城の産業転換・高度化模範園区の建設を支援すること,である。

 その後2022年5月には「県城(農村を代表する県の中心部)を重要な担い手として新型都市化建設を行うことに関する意見」が出される。ここでは,2025年までに,①欠点や弱点が補われ,人が集まる県城が作られること,②公共資源が基本的に住民の人口規模に合致しており,県民の生活が改善されること,③近隣の大・中都市との発展格差が縮小し,都市と農村の一体的な発展を支える役割がさらに発揮されること,が挙げられている。

 実はこの県城は,農村地域の中心部として重要な役割を果たしている。2021年に中国の都市常住人口は9億1000万人である。そのうち,1472の県の県城人口は約1.6億人,394の県級市の市街地人口は約0.9億人で,県城人口と県級市の市街地人口は全国の都市常住人口の30%近くを占めている。また,県と県級市の数は県級行政区画数の約65%を占めている(国家発展改革委員会担当者の記者会見)。つまり広大な中国に大量の小都市が分散しており,その発展を差し置いて,大都市だけを発展させるわけではないというメッセージである。

 2022年7月には都市化全体の計画として「第14次五カ年計画期新型都市化実施方案」が発表された。この文書には『国家新型都市化計画(2021-2035)』という文書に触れられているが,公開されていないようだ。そのため,この実施方案が『国家新型都市化計画(2014-2020)』の続編として位置付けられる。具体的な数値目標はないものの,2025年までに①常住人口,戸籍人口の都市化率の上昇,②農民の市民化と公共サービスの提供,③重点都市圏(北京・天津・河北,長江デルタ,広東・香港・マカオのグレーターベイエリア)の建設,④県城を重要な担い手とする都市化建設,④都市インフラ,生態環境の改善,などが挙げられている。

 2023年12月に開催された中央経済工作会議では「新型都市化と農村の全面的振興をより融合する」という言葉が新たに表れた。具体的な施策はまだ発表されていないが,これまでの都市化政策と農村振興が結合したことで,新型都市化は農村開発という側面がさらに強化されたと言ってよい。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3462.html)

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