世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
社会保険料率上昇抑制の鍵を握る医療・介護制度改革
(法政大学 教授)
2024.06.10
先般,内閣府は,経済財政諮問会議(2024年4月2日開催)において,財政・社会保障の長期試算を公表した。この長期推計は,「中⻑期的に持続可能な経済社会の検討に向けて②」という文書(以下「長期試算」という)で示されたもので,「現状投影シナリオ」「長期安定シナリオ」「成長実現シナリオ」という3つのシナリオに基づき,2060年度までのマクロ経済・財政・社会保障の姿を試算している。このうち,「現状投影シナリオ」とは,2030年度から2060年度における名目GDP成長率が0.5%~0.7%程度のものをいい,直近の景気循環(2012年Ⅳ期~2020年Ⅱ期)に沿ったシナリオになっている。
今後の社会保障制度改革の本丸は医療・介護だが,医療・介護給付費の伸びは,①人口構成の変化や,③診療報酬・介護報酬などの単価の伸びのほか,③その他要因として,医療の高度化などの影響を受ける。このため,今回の長期試算では,③の「その他要因(医療の高度化等)」が「0%のケース」「1%のケース」「2%のケース」を推計しているが,ベンチマークになるのは,現状投影シナリオのうち,「その他要因(医療の高度化等)」がこれまでの実績を考慮した1%のシナリオ(以下「ベンチマーク・シナリオ」という)であろう。
人口構成の変化や診療報酬などの単価の伸びを除き,医療費などの伸びが本当に1%もあるか否か,その推計の妥当性は精査が必要だが,ベンチマーク・シナリオでは,2019年度に8.2%であった医療・介護給付費(対GDP)は,2040年度に10.2%,2060年度に13.3%に上昇する試算結果になっている。また,長期試算では,医療・介護の社会保険料負担や公費負担の推計も示しており,例えば,ベンチマーク・シナリオでは,2019年度に4.8%であった医療・介護の社会保険料負担(対GDP)は,2040年度に5.7%,2060年度に7.2%に上昇している。この試算結果のとおり,2060年度の医療・介護の社会保険料負担(対GDP)が2019年度の1.5倍となるなら,それは,2019年度から2060年度にかけて,医療・介護の社会保険料率が50%増になることを意味する。
この関係では,2023年11月の財政審の建議でも,「報酬改定や医療・介護の制度改革に着実に取り組み,全体として,雇用者報酬の伸びの範囲に医療・介護の給付の伸びを収めていく必要がある」と記載しており,政府としても,医療版マクロ経済スライドの導入なども含め,医療・介護の給付の伸びのマクロ的な制御につき,さらに踏み込み,具体的な検討を行っていくべきだろう。
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