世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3439
世界経済評論IMPACT No.3439

中国自動車産業の競争力は本物か

福田佳之

((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)

2024.06.03

 2023年の中国国内の自動車市場は3,000万台を超えた。これは世界販売のおよそ3分の1を占めており,文字どおり世界ナンバーワン市場である。同じくバッテリー電気自動車(BEV),プラグインハイブリッド車(PHV),燃料電池車(FCV)など新エネルギー車(NEV)の販売も900万台を超え,電動化率は3割超となった。中国からの自動車輸出も2020年代に入って急激に伸び,2023年の乗用車輸出はBEVを中心に前年比48%増の539万台と日本を追い越した。このまま中国自動車産業の輸出競争力が強まって中国内外で日本や欧州の自動車を追いやっていくのか気になるところだ。

中国自動車の輸出競争力はBEVを中心に上昇

 中国自動車産業の輸出競争力について貿易特化係数とRCA(顕示比較優位)指数を用いて把握したい。貿易特化係数とは,分子に貿易収支,分母に輸出と輸入を合わせた貿易総額を置いて算出するものであり,当該産業の輸出競争力を簡便に把握するものとして使われる。ゼロが中立,プラス1に近づくほど輸出競争力が高く,マイナス1に近づくほど輸出競争力が低いと解釈する。貿易特化指数の推移を見ると,中国の貿易特化係数の増加傾向が見て取れる。2010年代後半以降,ゼロ近辺から急速に増加させ,2019年にはドイツを追い越し,直近2023年には0.75と日韓の水準に近づいている。続いてBEVだけを取り上げて同係数の推移を見ると,2020年代以降0.9台と他国と比べても高い水準で推移しており,直近2023年は0.96となっている。

 RCA指数とは国内当該産業について比較優位に裏打ちされた輸出競争力があるかどうかを把握するために用いる。国際貿易について国内において比較優位のある産業を中心に輸出が,同じく劣位にある産業を中心に輸入が行われると互いにメリットがあるとされる。RCA指数の算出方法は,各国の輸出全体に占める自動車産業の輸出比率を,世界全体の輸出に占める自動車産業の輸出比率で除する。同指数が1を上回ると,その国の当該産業は比較優位にあり,1を下回ると比較劣位にあると考える。中国自動車産業のRCA指数の推移を見ると,近年上昇しているものの,依然として1を下回っており,他の自動車輸出国に比べて輸出競争力が高いとはいえない。ただし,BEVだけに注目すると,同指数は2021年以降1を上回って推移しており,近年低下を続ける日米を逆転している。

 貿易特化係数とRCA指数の推移から,中国自動車産業の輸出競争力は上昇しており,特にBEVについては日米を追い越すレベルまで到達していると言えよう。

SDVを前面に打ち出し,外資系企業のシェアを侵食

 中国自動車産業の競争力が上昇した背景に,まず中央政府等のNEV普及支援とその進捗がある。これまで支出した補助金の総額は6兆円に上るとされる。続いて中国国内においてNEVを供給する多種多様な地場の自動車企業が現れたことが大きい。民営系企業であるBYDが台頭すると同時に,小鵬汽車(Xiaopeng),理想汽車(Li Auto),上海蔚来汽車(NIO)と呼ばれる新興御三家などが登場した。国有系企業もファーウェイと提携して巻き返しに転じており,また小米などITなど異業種からの参入も見られる。彼らは低コスト製造だけでなく,音声入力や自動運転などデジタル体験を提供するSDV(Software Defined Vehicle)を届けることを前面に打ち出している。

 一方,中国国内ではEVの過剰供給状況となってガソリン車を含めて激しい価格競争が生じており,中国EV各社は生き残りをかけた戦いを強いられている。このことは,優越的な地位を誇る日本の自動車メーカーも例外ではなく,中国国内のシェア低下と中国事業の業績悪化を経験している。

 こうした中国勢の攻勢に日本勢は巻き返すことができるのか。今後,日本勢の動向を注視していきたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3439.html)

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