世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の国際収支の構造変化
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2024.06.03
経常収支黒字は高水準,貿易収支は赤字
日本の国際収支統計を見ると,季節調整済み経常収支は,輸入物価上昇などによる貿易赤字の拡大を主因に,四半期合計値では2022年7-9月期に黒字幅がゼロ近くまで縮小しました。しかし,その後,貿易赤字が縮小したことから経常収支黒字は再拡大しました。2024年1-3月期までの1年は,GDP比4%程度で推移しており,歴史的に見てもかなりの高水準になっています。
ただ,その中身はかつてと大きく変わっています。貿易収支は2000年代半ばまで大幅な黒字であったものが,その後は赤字になることも多くなりました。それに代わって,海外との雇用者報酬,利子,配当等の受取と支払いのバランスである第一次所得収支の黒字が拡大し,現在ではGDP比6%程度に膨らんでいます。
直接投資収益の増大
さらに,第一次所得収支の中身にも変化が見られます。2000年代半ばまでは,証券投資に伴う利子,配当などの受取が第一次所得収支の黒字分のほとんどを占めていました。その後,証券投資収益収支の黒字はGDP比で増えなくなったのに対し,直接投資の収益の黒字が大きく拡大し,現在は第一次所得収支の黒字分の過半を占めています。2024年1-3月期には,直接投資収益収支の黒字は,経常収支黒字の85.5%に上っています。日本企業は国内で生産した財を輸出することから,子会社に生産や販売を海外で行わせ,そこから利子,配当を受け取ることに移行していると言えます。
成熟債権国としての在るべき姿
経常収支黒字が続いていることを反映して,対外純資産残高は増加傾向にあります。GDP比で見ると,2013年末には63.5%であったものが,昨年末時点では81.5%まで上昇しました。特に直接投資の純資産(対外直接投資残高-対内直接投資残高)の増大が顕著であり,GDP比では10年前の19.5%から44.9%へと上昇しました。日本企業は,リスク・テイクに慎重になって投資を全般的に手控えて成長力が衰えているのではなく,国内ビジネスの拡大に限界を見て,対外直接投資によって国際的に展開することで成長を続けていることがうかがわれます。
クローサーの国際収支発展段階説によれば,貿易収支が赤字となる一方,投資収益収支の黒字が拡大して経常収支黒字が維持されている日本は,成熟債権国の段階にあります。少子高齢化が進み,人口減に転じたことを鑑みれば,自然な流れです。人手・人材不足の一方,個人消費支出を中心に国内需要の伸びが鈍い状況では,国際的に展開する日本企業に国内回帰を促すことにも,海外企業を誘致することにも多くは期待できそうにありません。それよりも,国際投資の恩恵を企業だけでなく,日本に住む人々に広く行きわたるようにすることが重要でしょう。NISAやiDeCoなどを通じた個人投資家の国際分散投資も,そうした観点では積極的にとらえられます。政府もソブリン・ウェルス・ファンドによる国際投資によって収入源を拡げることも考えるべきではないでしょうか。
関連記事
榊 茂樹
-
New! [No.3623 2024.11.18 ]
-
[No.3614 2024.11.11 ]
-
[No.3606 2024.11.04 ]
最新のコラム
-
New! [No.3627 2024.11.18 ]
-
New! [No.3626 2024.11.18 ]
-
New! [No.3625 2024.11.18 ]
-
New! [No.3624 2024.11.18 ]
-
New! [No.3623 2024.11.18 ]