世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
遠のく次世代革新炉建設:原子力政策の漂流は続く
(国際大学 学長)
2024.03.18
2023年2月の「GX実現に向けた基本方針」の閣議決定より2ヵ月早い22年12月,同方針について審議していたGX実行会議において岸田文雄首相は,原子力発電所の運転期間に関して,「原則40年,延長は1回に限り最長20年」という現行の枠組みを維持しつつも,原子力規制委員会による審査や裁判所による仮処分命令などで運転を停止した期間を計算から除外し,その分を追加的に延長できるようにする新方針を打ち出した。その結果,日本の既設の原子炉は,実質的には,従来の上限だった60年を超えて運転期間を最大で約10年延長することができるようになった。この新方針を盛り込んだGX脱炭素電源法案が23年5月に成立した。
これらの動きの発端となったのは,22年8月のGX実行会議で,岸田首相と西村康稔経済産業相(当時)が行った原子力に関する発言である。そこで岸田政権が,原子力政策遅滞の解消に向けて22年末までに政治決断が求められる項目としてあげたのは,(1)次世代革新炉の開発・建設と,(2)運転期間の延長を含む既設原発の最大限活用との,2点であった。
このうちとくに(1)について,一部のメディアは,「原子力政策を転換したもの」ととらえ,大々的に報道した。政府が,「原発のリプレース・新増設はしない」というそれまでの方針を転換して,次世代革新炉の建設に踏み込んだものと理解したのである。
しかし,本当にそうだっただろうか。結論から言えば,「政策転換」と判断したのは誤りであった。結局,実現したのは(2)の運転期間延長だけであり,肝心の(1)の次世代革新炉の建設については,今日にいたるまで何の進展も見られないからである。
11年の東京電力・福島第一原子力発電所事故後の日本では,原子力に関する政府の無作為が顕著であった。「無作為」とは,戦略も司令塔も不在である状況をさす。
政治家にとって,原子力は厄介なしろものである。国論が二分している状況のもとで,選挙の際に,強く推進を表明しても強く反対を主張しても,いずれも票を減らす可能性が高い。政治家からみれば選挙時にはなるべく原子力に触れないでおくのが「得策」なのであり,その結果,問題はどんどん先送りされる。改革は行われず,原子力政策は漂流したままとなるのである。
官僚,とくに所管官庁である経済産業省資源エネルギー庁の官僚のなかには,きちんとした原子力政策を進めたいと考える人々が,もちろん存在する。しかし,彼らも,選挙を気にする政治家(とくに首相官邸)の意向を忖度せざるをえない。次のポストにかかわるからである。こうして,官僚もまた,原子力政策の漂流にのみ込まれてゆく。
22年8〜12月の局面でも,資源エネルギー庁は,本気で次世代革新炉の建設を志向した。しかし,岸田政権が22年末までに政治決断したのは既設炉の運転期間延長だけであり,次世代革新炉の建設については具体的な方針を示すことはなかった。既設炉の運転延長ができるのであれば,電気事業者がわざわざ高いコストをかけて,次世代革新炉を建設するはずはない。岸田政権による運転期間延長方針の決定は,皮肉なことに,革新炉建設を遠のかせる逆機能を発揮することになった。資源エネルギー庁は,「はしごを外された」格好になったのである。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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