世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3308
世界経済評論IMPACT No.3308

下落する米国の耐久消費財物価

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2024.02.26

サービス物価インフレ率は足元で再加速

 米国の1月分消費者物価は,前年同月比では+3.1%と,昨年12月の+3.3%から低下したものの,短期的な動向を示す6ヵ月前比年率換算値では+3.3%と,12月の+3.1%を上回りました。消費者物価をサービス・財別に見ると,サービス消費者物価は2022年9月に6ヵ月前比年率換算値で+8.7%を記録した所から,昨年8月には一旦同+4.0%まで下がりました。しかし,12月には+5.1%,今年1月には+5.7%と,足元で再加速気味です。一方,非耐久消費財は1月には+1.9%と足元では落ち着いた動きを示しています。これに対し,耐久消費財は1月には−4.2%と5か月連続のマイナスである上,マイナス幅は拡大傾向にあります。米国経済はソフトランディングというより,サービス物価のインフレと耐久財物価のデフレが混在する状態と言えます。

 サービス支出が個人消費支出の約3分の2を占めている点では,個人消費支出や消費者物価の基調はサービスが決めていると言えます。サービス支出のインフレ率が高く,消費者物価全体としても上昇率の低下が一服していることから,Fedは当面利下げには動きにくいと見られます。

長期的に低下する耐久消費財支出比率

 コロナ禍直前の2019年には,耐久消費財支出が個人消費支出に占める比率は10.6%でした。コロナ禍によって人々が外出や公共交通機関の利用を控えると,いわゆる巣ごもり需要の高まりや自家用車の購入増などにより,耐久財を中心に財が個人消費支出に占める比率は急上昇し,2021年3月,4月には,耐久財支出比率は13%以上となりました。その後若干低下したものの,2023年末でも11.7%と,依然コロナ禍前より高い水準です。経済のサービス化につれて長期的には耐久財支出の比率は低下傾向にある上,長期トレンドから逸脱して上昇した分,今後は耐久財支出比率が大幅に下落することが予想されます。サービス支出は相対的に堅調,耐久財支出は軟調という形となり,サービス物価インフレと耐久財物価デフレが続きそうです。ただ,過去を見ると,サービス物価は耐久財物価に遅れて動く傾向があるため,サービス物価インフレ率は今後徐々に下がり,消費者物価全体のインフレ率も,緩やかに低下してゆくでしょう。

世界的な消費者物価インフレ率の低下

 耐久消費財は,最終製品だけでなく,部品,素材,燃料等が貿易を通じて世界的に取引されているため,それらの価格も各国・地域で連動すると考えられます。

 中国では,1月の消費者物価が前年同月比−0.8%と,12月の同−0.3%からマイナス幅が拡大しており,デフレが深刻化しています。これは単に中国の景気が悪いからだけではなく,米国の耐久消費財物価の下落の影響を受けている面もあるでしょう。また,耐久消費財の一大生産拠点である中国のデフレが,米国の耐久消費財物価の下落の背景にあるとも言えそうです。どちらかが原因というより,相互に影響しあっていると考えるべきでしょう。

 耐久消費財物価の下落は米国に留まらない拡がりを持ち,消費者物価全体のインフレ率低下も世界的なものであるようです。米国や中国との貿易が多い日本も,その影響は免れないでしょう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3308.html)

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