世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3284
世界経済評論IMPACT No.3284

米国アセアンセンターの開設と米国のASEAN経済協力

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員・ITI客員 研究員)

2024.02.05

 2023年12月14日,米国アセアンセンター(U.S.-ASEAN)がワシントンで開設され,国務省のリズ・アレン国務次官が挨拶を行った(注1)。米国アセアンセンターの設立は,2023年9月6日にジャカルタで開催された第11回の米国ASEANサミットで決定された。米国アセアンセンターは,日本,韓国,中国,インドに続く世界で5番目のアセアンセンターである。

 米国アセアンセンターの目的は,①ASEANと米国の民間セクター(とくに中小企業)および市民社会の関係強化,②文化および教育分野の米国とASEANの人的交流の強化,③米ASEAN包括的戦略的パートナーシップの具体的な活動を支援強化するための調査の実施,④人材育成(キャパシティ・ビルディング)の推進などにより米国ASEANの関係をさらに強化拡大することだ。運営は国務省とアリゾナ州立大学(ASU)が官民連携で行うなど従来のアセアンセンターとは異なっている(注2)。

 米国アセアンセンターの開設は2022年5月にワシントンで開催された米ASEAN特別サミット,2022年11月のサミットで決定された包括的戦略パートナーシップへの格上げに続く米国のASEAN関与の重要な動きである。

多様な米国のASEAN協力

 米国はASEANに対する様々多様な協力を実施している(注3)。米国国際開発庁(USAID)は,米ASEAN地域開発協力協定(U.S.-ASEAN Regional Development Cooperation Agreement: RDCA)を2029年まで延長した。2020年に調印されたDDCAはASEAN米国戦略的パートナーシップ行動計画の実施のための協定で2021年から25年を対象としていた。

 経済分野では貿易投資枠組み取決め(Trade and Investment Framework Arrangement: TIFA),E3(Expanded Economic Engagement)イニシアチブなどのプログラムにより次のような協力が実施されている。デジタル経済では,デジタルインフラ,データ政策と規制,デジタル包摂などの分野でASEANを支援する米ASEANデジタルワークプラン2023−25が実施されている。また,ASEANデジタル統合枠組み行動計画(DIFAP)の見直し,ASEANデジタル統合インデックス(ADII2.0)の開発が進められている。零細中小企業開発では95コースと375のオンラインプログラムを持つASEAN中小企業アカデミー2.0への支援を米ASEANビジネス協議会と協力して行っている。貿易円滑化ではASEANシングルウィンドウ(ASW)の運用への協力を実施している。このほか,知的財産,良き規制慣行,労働,農業などの分野での協力を実施している。

 包摂的な成長は米国のASEAN協力の重要な分野であり,ジェンダー平等,女性の主導する零細中小企業などの多様なASEAN協力をRDCA,メコン米国パートナーシップ(MUSP),IGNITE(Innovation,Trade and E-Commerce)などのメカニズムにより実施している。

 インフラ分野では2022年のG7エルマウ・サミットで発足したグローバル・インフラ投資パートナーシップによる次のような協力を開始している。まず,質の高い持続的なインフラの建設によりASEAN連結性マスタープラン2025を推進することを目的に米ASEANインフラ連結性プラットフォーム(U.S.-ASEAN Platform for Infrastructure and Connectivity)が立ち上げられた。米ASEAN交通パートナーシップ(U.S.-ASEAN Transportation Partnership)により,米国運輸省が安全,持続的で強靭なインフラ,地域連結性と新しい輸送技術の促進のための新たな空運,陸運,海運プログラムを開始した。

 また,2023年9月にインドネシアで開催されたASEANインド太平洋フォーラムで,米国貿易開発庁(U.S. Trade and Development Agency)は持続的なインフラと地域の連結性の開発促進のためにASEANでネット排出ゼロに向けた30億ドルの気候ファイナンスとデジタルファイナンス,交通,健康,スマートシティへの官民のファイナンス50億ドルの合計80億ドル以上の資金の動員を目指すことを発表した。米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation)はASEANの民間セクターへの6億ドルの投資を発表した。インドネシアの零細中小企業への貸付を支援する1億ドルのローンポートフォリオ保証(loan portfolio guarantee)とエネルギー効率改善と排出削減を行う気候関連テクノロジー分野のスタートアップの創出と発展を支援するための1億5000万ドルの出資を含んでいる。米国は2022年に米ASEAN電気自動車イニシアチブ(U.S. -ASEAN Electric Vehicle Initiative)を開始しており,米国の運輸省と米国貿易開発庁がEV関連インフラの改善のための政策提言を行うとともにEVに関するワークショップ開催し,ASEAN のEV市場調査を開始した。

 2022年の米ASEAN特別サミットで米国は1億5000万ドルの資金協力を表明したが,2022年のASEANへの資金協力は合計8億6000万ドルに上る(注4)。また,2002年から21年までの資金協力額は121億ドルを超え,15億ドルの人道支援を行っている。2024年予算では,ASEANの制度的な強化のために9000万ドルの資金協力を行い,ASEAN各国の経済,開発,安全保障協力に12億ドルの資金協力を行うことを計画している(注5)。米中対立の中でASEANの地政学的および経済的重要性が高まっており,米国のASEANへの関与は今後も強化されるだろう。

[注]

  • (1)U.S. Department of State, “Under Secretary Allen Opens the U.S.-ASEAN Center in Washington, D.C.” December 14, 2023.
  • (2)石川幸一(2023)「米国にASEANセンターを設立-第11回米ASEAN首脳会議」,世界経済評論インパクトNo.3134。
  • (3)The White House, “Fact Sheet: U.S.-ASEAN Comprehensive Strategic Partnership, One Year On”, September 5,2023.
  • (4)The White House, “Fact Sheet: U.S.-ASEAN Summit in Washington D.C.”, May 12,2002.
  • (5)The White House, “Fact Sheet: U.S.-ASEAN Comprehensive Strategic Partnership, One Year On”, September 5,2023.

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3284.html)

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