世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3221
世界経済評論IMPACT No.3221

中国の超巨額「穏性」債務問題:「愚公移山」策は奏功するか

結城 隆

(多摩大学 客員教授)

2023.12.11

 地方政府の債務問題の深刻さは,不動産業界のそれを遥かに超える。不動産不況により土地使用権の売却収入が昨年だけで20%以上減少した地方政府の財政状況は極めて厳しく,一部の省では債務不履行に陥る懸念も取り沙汰されるようになっている。こうした状況を踏まえたのだろう。12月5日,格付け機関のMoody’sは中国の国債格付けを「A1 Stable」から「A1 Negative」に引き下げた。

 中国の公的債務残高は国よりも地方の方が大きいという特殊な構図になっている。そして地方政府が抱える負債は増加の一途をたどってきた。しかも,その資金調達の方法は複雑で分かりにくい。省政府は一般財政の赤字を補填するための一般債権に加え,道路をはじめとする各種インフラ建設のための専項債を発行する。それに加え中央政府からの財政交付金もある。これらについては中央政府が各年の上限を設定している。さらに,省・市・県はそれぞれ独自に城投債の発行や,銀行借り入れなどによる資金調達を行っている。ここに来ると中央政府の管理は及びにくい。前二者は顕性債務であり,後者は隠性債務といわれる。地方政府の債務問題は3つに整理できる。まず,債務規模がコロナ禍の中で爆発的に拡大した。次に,不動産不況の中で,返済原資となるべき土地使用権売却収入が激減した。最後に,地方政府による開発投資の収益性が年々低下していることである。

 まず,2023年の地方政府の債務残高は42.2兆元で,初めて40兆元を超えた。前年比7兆元もの増加である。これはGDPの約30%に相当する。コロナ禍前の2019年比では16兆元も増加している。一方中央政府債務残高は約30兆元。それでも顕性債務だけ見れば中国の政府債務残高のGDP比は「危機水準」と言われる60%を下回る。しかし,穏性債務の規模はこれらを大きく上回っている。「穏性」と言われるだけあって,その実態(資金調達方法,借入条件,債務管理状況)は十分に把握されているとは言い難い。借入主体は地方政府が設立した城投公司(都市建設投資会社)である。1991年に国務院が認可した地方政府による建設・開発事業のための資金調達機関だ。城投公司の債務残高は,20兆元前後が債券発行,40兆元前後が金融機関からの借り入れと推計されている。IMFによれば地方政府の穏性債務残高は今年末には66兆元に達するという。これを加えれば,中国の政府債務残高のGDP比は100%近くに達する。

 次に,地方政府財政収支の悪化が急速に進んでいる。地方政府の土地収入は,2021年の約9兆元から22年には7兆元に落ち込み,今年は4兆元程度に留まる見込みだ。とくに西部地区の状況は極めて厳しい。湖北省武漢市の今年の土地使用権売却収入は前年比30%減,江蘇省南京市は50%減,雲南省の昆明市に至っては90%もの減少となっている。いずれも全国平均の20%を大きく上回っている。一方,政府はゼロコロナ政策解除後の経済・社会安定のため,地方政府に対し「三保政策(民生維持,給与支払いの維持,経営継続)」を厳命している。「保交楼」実施のための資金負担も増える一方である。これに産業構造高度化のための財政支援という負担がのしかかる。

 最後に,地方政府が投資した開発事業が思うように収益を上げていない。2010年から19年にかけて中国の中央・地方政府債務は年率12.4%で増加した。これに対し,名目GDPの上昇は年率11.1%であり,政府の財政支出増加は相応に経済成長に寄与していたことが伺われる。一方,2020年から22年についてみると,政府債務は年率17.1%で増加したものの,名目GDPの成長率は7%にとどまっている。コロナ禍という事情もあろうが,借金をして財政支出を増やしてもその経済効果は期待されたほど上がっていないわけだ。中国の高速道路建設は国が企画しその建設と運営は地方政府が担うが,営業収入は年間6千億元,累積赤字は6兆円に上っており,黒字化の目途は立っていない。また,中国には248か所の空港があるが,コロナ禍前の時点で黒字を計上しているのは30か所に過ぎないという。

 不動産開発業者の債務問題については,トリーアージュ作業にほぼ目途がつき,破綻処理と救済・支援策が整いつつある。支援策については,大手開発業者と主要債権銀行との個別交渉が11月から一斉に開始されている。一方,地方政府の債務問題への取り組みは,これからが本番である。政府の施策は「愚公移山」と言える。巨大な債務の山を一気に掘り崩すことはできない。金融システミックリスクを抑えつつ少しずつ時間をかけて処理するよりほかに策はない。

 まず,貸し手責任の追及である。地方政府の債務管理が一段と強化されるようになった。今年3月の全人代で,金融保険監督管理委員会が,中国金融監督管理総局に格上げされ,証券監督管理委員会がその傘下に入った。局長は大臣クラスであり,職員数は900名を超える。今年5月に組織が立ち上がり11月から運営が開始されたが,それに先立つ8月に,金融保険監督管理委員会は数十名に及ぶ検査担当官を地方政府に派遣し,城投公司を含む地方政府の債務状況の調査と,資産査定を実施した。さらに,城投公司に与信を行っている金融機関に対する査察も実施された。地方政府とのしがらみの中で行われた不透明な融資が続々と摘発された。党中央規律委員会も動いている。今年に入って規律委員会が摘発した金融関係者は80名に上る。本格的に業務を開始した国家金融監督管理総局の初仕事は主要銀行の監査であり,12月初旬には大手銀行を中心に22件の違反行為が摘発された。行政処罰を受けた銀行幹部は52人に上る。

 次に,借り手である地方政府に対し,改めて自己責任が強調されている。城投公司は地方政府が出資する開発会社であり,その意味,最終的なリスクは政府が負うことになる。その結果,杜撰な経営が蔓延していたためだ。「国が城投公司を救済するのは『幻覚』に過ぎない」と異例の強い調子で警告している。

 最後に,救済策も実施されている。今年の地方政府発行債券の償還額は,前年を1兆元近く上回る3.7兆元と過去最高に達する見込みだ。政府は,借換債の発行を2018年から認めるようになっているが,今年については償還金額の80%を上限に発行が認められる。また,地方政府の債務上限額も,前述のように7兆元拡大している。借換債は実質政府保証債の意味合いが強い。この数か月地方政府債のイールドが低下していることから見ると,地方政府債の信用力もこれによって底上げされるようになっているようだ。

 「愚公移山策」の成否は見えない。しかし,党・政府が覚悟を決め,体制を整えたうえで,本腰を入れて取り組みを開始したことは大きな前進ではないだろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3221.html)

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