世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3134
世界経済評論IMPACT No.3134

米国にアセアンセンターを設立:第11回米ASEAN首脳会議

石川幸一

(亜細亜大学 特別研究員・ITI 客員研究員)

2023.10.02

 第11回の米国ASEANサミットが2023年9月6日にジャカルタで開催された。バイデン大統領は欠席しハリス副大統領が出席した。米国は対話国関係45周年の2022年5月にワシントンで米国ASEAN特別サミットを開催し,米国のインド太平洋戦略(FOIP)とインド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)という2つのインド太平洋構想を補完することにより米国とASEANの新時代を開始することを明らかにした。気候変動,持続的開発,包摂的な繁栄,教育へのアクセス支援,健康の安全保障などを目的とする協力のために1億5000万ドルの資金協力を発表している。昨年10月の第10回サミットでは,ASEANと米国の関係が包括的戦略パートナーシップ(Comprehensive Strategic Partnership)に格上げされた。

 今年のサミットでは,2024年開設を目指してアセアンセンター(ASEAN-U.S. Centre)をワシントンに設立することが決定したことが注目される(注1)。アセアンセンターの設立は米ASEAN特別サミット,包括的戦略パートナーシップへの格上げなどの米国のASEAN重視と関与強化の動きに続く重要な決定である。米国はASEANに対する最大の投資国であり,2022年の往復貿易は5203億ドル,ASEANと米国のビジネスにより米国50州で62万5000人,ASEANでは100万人の雇用が創出されている(注2)。センターの目的はこうした米国ASEAN経済関係をさらに発展させ米国のASEANに対する文化的な関与を拡大深化することである。

 米国ASEANセンターは,国務省とアリゾナ州立大学(ASU)との官民連携(public-private partnership)により設立される(注3)。アリゾナ州立大学は東南アジアおよびインド太平洋地域の学術プログラムと研究に長年にわたり携わっており,ASEANおよびASEAN地域の民間団体や研究機関との協力を行うのに格好の機関とされている。アリゾナ州立大学のマイケル・クロー学長は,ASUは米国企業,米国政府を支援してきており,国務省およびASEAN事務局から提携先として選ばれた。共同研究,教員の交流,学術交流およびその他の活動により米国とASEANの包括的な連携を促進・支援すると述べている。

5番目のアセアンセンター

 アセアンセンターは1981年に日本に国際機関として設立されたのが最初である。その後,2009年に韓国,2011年に中国,2013年にインドにアセアンセンターが設立されており,米国でのアセアンセンターは5番目となる。日本のアセアンセンターは貿易,投資,観光を対象としていたが,中国は文化交流,韓国は文化交流に人的交流が加わり,インドのセンターは情報提供や研究を重視している。米国のアセアンセンターは経済交流や人的交流に学術交流が加わっている。このように対象分野は多少異なるもののASEANへの関与と重視を具現化する機関としてのアセアンセンターは日本アセアンセンターがモデルになったといえる。

 経済交流や経済協力,文化交流などは基本的に2国間をベースとしているが,アセアンセンターはASEANとの交流や協力を進めている。日本のアセアンセンターは,ASEANからの製品輸入,ASEANへの投資,ASEANへの観光の促進など時代を先取りする協力事業を実施し,プラザ合意後のASEANの輸出投資主導型発展の地ならしを行った。その後も日本のASEAN重視とASEAN関与の象徴的な機関として時代環境の変化に対応して日本とASEANの連携を民間企業,政府と協力し進めている。日本のアセアンセンターは日本と東南アジアの関係強化と第2次世界大戦後の東南アジア地域での日本の新しいイメージを形成するのに極めて重要な役割を果たしたと評価されている(注4)。

 ASEANは2030年代にはGDPで日本を超えると予測され,経済的重要性はさらに増すことは確実だ。アジア地域だけでなく,インド太平洋でも中核的な位置になり,外交や安全保障でも重要性が増している。ASEANはアジアでは経済統合の最先進地域であり,極めて広範で新しい分野を含む経済統合であるASEAN経済共同体2025を着実に構築している。ASEANの変化は急速であり,経済および制度などに関する最新の情報が常に求められている。ASEANとの協力と交流を幅広い分野で推進し,最新の質の高い情報を提供するするアセアンセンターの役割はこれら5か国でますます重要となろう(注5)。

[注]
  • (1)Chairman’s Statement of the 11th ASEAN-U.S. Summit, Jakarta, Indonesia, 6 September 2023.
  • (2)Ibid.
  • (3)Department of State, Establishment of a U.S,-ASEAN Center in Washington, D.C. September 6,2023.
  • (4)Baron, Sam and Abhinav Seetharaman(2023), U.S. needs its own ASEAN center, Nikkei Asia, March 23, 2023.
  • (5)Baron, Sam and Abhinav Seetharaman(2023), U.S. needs its own ASEAN center, Nikkei Asia, March 23, 2023.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3134.html)

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