世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3127
世界経済評論IMPACT No.3127

中国:若年失業率データの公開停止

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2023.09.25

 8月15日,中国の国家統計局は16歳から29歳の都市調査失業率の公表を取りやめると発表した。主な理由は,経済社会の発展・変化に伴い,統計業務もそれに合わせて改善,最適化する必要があるからだという。高等教育の普及により,この年代は大部分が学生であるため,卒業前に就職活動をしている学生を労働力調査統計に含めるべきかどうかについては,社会の各方面からさまざまな見解があり,今後の検討が必要である,と指摘している。

 中国の失業率データは,全国都市調査失業率を基本とし,本地戸籍人口(その都市に戸籍を有する人口)の都市調査失業率,外来戸籍人口(出稼ぎで就業地に戸籍がない人口)の都市調査失業率,そして16-24歳人口及び25-29歳人口の都市調査失業率の5つが公表されてきた。このうち,後者2つの若年層の失業率の公表が止められたということになる。

 定義を調べてみると,「都市調査失業率」とは,労働力調査または関連するサンプル調査から得られた都市の全労働力人口(就業者人口と失業者人口の合計)に占める失業者人口の割合を指す。このうち就業者人口とは,調査基準期間中(通常は調査時点の1週間前)に労働の対価や事業からの収入を得る目的で1時間以上働いた16歳以上の人を指し,休職中や一時的な出勤停止などで働かなかった人も含まれる。失業者とは,16歳以上で働いていないが,過去3ヵ月間に積極的に求職活動をしており,適当な仕事があれば2週間以内に働き始めることができる者,と定義される。労働力人口の下限年齢は16歳で,上限年齢はない。労働力人口とは対照的に,就業も失業もしていない16歳以上の人々は非労働力人口と呼ばれ,働く意思のない専業主婦,学生,労働能力を喪失した人々などが含まれる。

 定義的には,国際基準とそう変わりはしないが,全国都市調査失業率などは5%前後でほとんど変化がみられない。16-24歳人口の都市調査失業率は,月ごとの変化が卒業シーズンに一番高くなることから,高卒,大卒を含む新規の雇用吸収力を示す指標として,景気を見るには非常に信頼性のあるデータであった。

 国家統計局の記者会見によると,2022年の中国の16-24歳の都市部の若者は9,600万人以上いて,そのうち学校に在籍している若者は6,500万人以上だという。単純に計算すると3100万人が労働力人口となる。障害や何かしらの理由で労働意欲がない人口を考慮しても,約3000万人が労働力人口とみて良いだろう。毎年の大卒生1100万人程度が求職活動をしていることを加味すれば,約4100万人が失業率計算の分母となる。したがって,5月から7月までの16-24歳失業率が20%程度であることから,現在の若者の失業者数を推計すると,約820万人となる。

 これは中国経済全体のどれくらいのインパクトになるのであろうか。都市就業者数は4億6000万人程度であるため,比率でみると,約1.8%である。絶対数でみると,若者の失業率が高いとはいえ,若者の失業者数自体は中国全体への影響は小さいと言える。

 とはいえ,大学という高等教育に社会資源を投じている中国にとって,卒業生に雇用がないという状況は芳しくない。若年人口が2010-2013年頃から減少しているので,すでに中国は人口ボーナスを失っている。政府は高等教育の拡大で,「人材ボーナス」を強調するものの,人材を活用しきれていないのではないかという疑問が出てくる。

 若年層,とくに16-24歳人口都市調査失業率データの停止により,政府は的確な「人材ボーナス」を活用する政策を考えることができるのだろうか。このデータの公表再開を期待したいものだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3127.html)

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