世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3008
世界経済評論IMPACT No.3008

支援や制裁だけでなく停戦や共存に知恵を:長引くウクライナ戦争の被害拡大を憂う

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2023.06.26

 幸いなことに戦争の体験がなく,その悲惨さを実感できない。でも,今ウクライナではインドのモディ首相をして「今は戦争の時代ではない」と言わしめた戦争が1年以上も続き,心を痛めている。罪もない一般市民や子供達が砲弾の犠牲になり,食糧やエネルギー価格の高騰でグローバルサウスの人々にも影響が及んでいる。つい最近では南部のダムが決壊し水害で住民が家を追われ,飲料水や農業用水確保だけでなく原発の冷却水への心配や地雷の流出被害等も懸念されている。

 先のG7広島サッミトでは,ウクライナへの支援や侵攻したロシア制裁に結束を見せたが,このままでは最も尊い人間の命を含む被害拡大は避けられない情勢だ。戦争ではないが2011年の東日本大震災を仙台市内で被災,災害の恐怖の中で世界から駆け付けた救助隊の献身や支援で人間のすばらしさを実感した。その経験からすると,一日も早い停戦や平和の実現,両国共存を願わずにはいられない。

不透明なウクライナ戦争の行方

 このところのニュースの多くはウクライナの反転攻撃が始まったとの観測で,情報戦や心理戦の様相もあって双方の主張が異なる中で,人命を含めて被害の増大は避けられない情勢と危惧される。また,この情勢が何時まで続くのか今後の行方が不透明で,ロシアが不利になるような事態では核兵器使用で戦争がエスカレートし第3次大戦もあり得るのではと心配されている。したがって,今後の展開を注意深く見守るとともに,そろそろ停戦や休戦の道筋を議論しなければならないと思う。先のG7サミットは人類初の原子爆弾が投下された広島市で開催されただけに,核兵器の使用はあってはならないであろう。

 停戦に向けての仲介案は,G7広島サミットに招待されたブラジルの大統領が提案をしている。また,同じく招待されたインドのモディ首相は,ウクライナから駆け付けたゼレンスキー大統領との会談で,対話と外交による停戦に努めると表明している。さらに中国は先のアジア安保会議で李尚福国防相が和平の仲介意欲を表明,南ア等のアフリカ7カ国は和平協議の使節団を派遣している。いずれもまだ成果はないが,インドは今年のG20会議の議長国でBRICS会議のメンバー国でもあり,モディ首相は前記のようにプーチン大統領を誡める一方でウクライナには医薬品等人道支援しており,今後の外交が注目される。

停戦に向けて日印両国の連携協力を

 ウクライナ戦争に関してインドは,かつてのソ連寄りの立場からロシアの主張に組し,日本はロシアを非難する米欧陣営寄りで,最近覇権主義を強めている中国はロシア側と見られている。また,中国の覇権主義に対する自由で開放的なインド太平洋(FOIP)構想で日印米豪の4か国の協力連携が進展し,最近では韓国や欧州諸国もこれに参加する意向がうかがえる。どんな過去の歴史的な経緯や背景があったにせよ,侵攻したロシアに世界の批判が集中するのは当然であろう。そのロシアではプーチン大統領が独裁色を強めて,国民の大多数は情報統制や操作で真の姿が知らされずにいるようだ。

 こんな状況の中で,ウクライナ側が勝利するまで戦争を続ける,そのためにウクライナ側への支援とロシアへの制裁を続けるのは正しいことなのだろうか。正しいとしても人命を含めて被害増大は避けられず,戦争以外にも世界には解決すべき課題が多い今日では早急な停戦休線,そして平和共存への道を探るべきと思う。その仲介役としては双方に関与しているだけに提案や対話もしやすいインドが適役と目され,G20首脳会議が予定される9月に向けて具体的な動きが期待される。G20議長国のインドとG7議長国の日本は連携を約しており,戦争の停戦休戦,そして双方の平和共存に英知を絞って欲しいと強く望みたい。

平和文化都市にマハトマ・ガンディ胸像

 一部のマスコミの報道にとどまったが,G7首脳会議に出席したモディ首相は広島市にマハトマ・ガンディ胸像(注1)を寄贈,平和記念公園近くの河岸緑地に設置され5月20日に松井市長と除幕式を行った。マハトマ・ガンディは,“インド独立の父”とも言われるが非暴力運動で世界中に遍く知られており,同胸像は昨年12月にはニューヨークの国連本部内の公園にも設置されている(注2)。世界平和を守る国連本部と核廃絶運動の総本山ともいうべき広島市が繋がって,世界に非暴力や平和,核廃絶運動を発信する。今回のG7広島サッミトの意義を補強する喜ばしいエピソードではないだろうか。

[注]
  • (1)胸像は,高さ約2.2m,幅約1.8m,奥行き約1.2m。インド側は平和記念公園内への設置を希望したが工作物の設置はできないことから,市民や来訪者の多い同公園近くの安川東側河岸緑地に設置された。
  • (2)The Times of India, India’s UNSC presidency to mark arrival of Mahatma Gandhi’s bust at UNHQ, Dec 2 2022
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3008.html)

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