世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2978
世界経済評論IMPACT No.2978

日経平均株価4万円へ:“グリーンIoT”産業政策の遂行

朽木昭文

(ITI 客員研究員・放送大学 客員教授)

2023.05.29

 日本経済は,30年の停滞から成長への条件が見えてきた。その条件は,産業政策が“重点産業(Picking winner)”を間違うことなく,またその産業でイノベーションを活性化させることである。

日本成長の歴史循環での好機

 戦後の世界経済の成長を支えたのは,日本とドイツであった。原油価格が,2023年5月,1バーレルは70ドル前後であるが,1970年までは1ドル以下であり,日本もドイツも重化学工業化などでこの安い原油の恩恵を享受した。1973年の第1次石油危機により石油価格は高騰し,またローマクラブによる「成長の限界」が環境問題を警告した。1980年代に,日本の中小企業の微細技術が活用され,マイクロエレクトロニクス技術は自動車排ガス規制を含む省エネ・代替エネなどでも功を奏し,ジャパンアズナンバーワンといわれた。同時に円高もあり日本からアジアへの雁行形態の成長が始まり,韓国,シンガポール,香港,台湾の所謂アジア四小龍の高度経済成長が続いた。

 しかし,輸出指向型工業の成長メカニズムが行き詰まるのが,1997年のアジア通貨危機である。タイなどが輸出競争力を高めるため大幅に為替を切り下げた。中国は,為替切り下げ競争に加わらず,アジアを支え躍進した。中国のGDPは2010年に日本のそれを上回った。

 こうして市場経済化によるグローバル化が進んだが,経済的なひずみも拡大し,2008年にはリーマンショックと呼ばれる世界金融危機が発生した。そして,アメリカ第1主義のトランプ大統領やイギリスのEU脱退などのアンチ・グローバリズムの動きが出てきた。地球の市場経済化に大きな反省を促したのが2020年の新型コロナであった。明確に必要とされる産業はグリーン産業であり,日本には環境技術の蓄積がある。

世界経済状況下での日本への有利性

 2017年のアメリカ・トランプ大統領の登場以降に米中覇権争いが鮮明になった。2020年以降のバイデン大統領は,ロシアのウクライナ侵攻の活用により中国との産業のデカプリングを目指した。これが功を奏し,覇権争いで中国の競争力を削いだ。また,中国での企業立地のリスク分散の国として日本が「アジア・ゲートウェー」となる。中国の拠点が日本に移る。外国投資と外国人材の受け入れの絶好のチャンスとなる。

 この時期に日本と韓国との関係は,2022年の韓国・ユン・ソンニョル大統領の登場により大幅に改善された。日本にとってはサムスンなど韓国の先進産業と協業の絶好のチャンスが生まれた。アメリカ,韓国,台湾の大手半導体企業の対日投資は,2兆円を超える。アメリカ・インテル,ベルギー・imec,韓国・サムスンなどである(注1)。

日本での産業クラスターの形成

 北海道では,千歳市において,ラピダスが半導体クラスターを形成し,北広島市では日本ハムが北海道ボールパークを中心としたF. Villageを運営する。札幌市は,JR札幌駅の再開発により都市集積を形成した。更に,新たなランドマーク・タワーの建設も予定される。そして,新幹線が2030年開業予定である。札幌では都市クラスターが形成される。

 熊本では,TSMCを中心とした半導体産業が集積し,九州デジタル・クラスターの形成が可能となった。JR駅を中心とした都市集積は,大阪のうめきたプロジェクト,リニア開業に向けたまちづくり名古屋,博多コネクティッド,グローバルゲートウェー品川,せんだい都心再構築プロジェクトなどがイノベーションの受け皿クラスターとなる。

産業政策のピッキング・ウィナー“グリーンIoT”

 産業政策とは,経済学では幼稚産業保護論で説明される。ピッキング・ウィナー(重点産業)に対して幼少期に補助することにより保護し,成長した青年期に純利益を確保する。政策のカギとなるのは,政策がピッキング・ウィナーを正しく選択することである。

 現在は技術革新が,第4次産業革命の下にある。半導体の技術進歩は急速であり,それに伴うデジタル経済化の進行である。そして,明らかになっているのは,グリーン経済とデジタル経済の融合である。特に,2023年には製造では半導体産業であり,ソフト面では生成AIのChatGPTなどである。ここに,日本の強みがある。つまり,IoT(モノのインターネット)である。

 日本の環境技術は1970年代からの蓄積がある。ここに,産業政策の「ピッキング・ウィナー」である「グリーンIoT産業政策」の実施がその成否を決める。

決め手となる日本での「イノベーション」

 2023年5月18日,日本の株価が3万円台に回復した。日本において,「イノベーション」が起こり,新たな付加価値を生み出すことができるか? これに日経平均の4万円,そして日本の持続的な成長はかかっている。

[注]
  • (1)日本経済新聞2023年11月19日。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2978.html)

関連記事

朽木昭文

最新のコラム