世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国の構造的金融政策を考える
(独協大学経済学 教授)
2023.04.24
最近,中国では,よく「構造的金融政策」という言葉が聞かれるようになった。「構造的金融政策」とは何だろうか。経済全体を対象とする一般的な金融政策と区別され,経済の特定の部門(分野)に対して実施した金融政策であると説明されている。政策目標は経済構造改革,あるいは構造のゆがみを是正するためのものであるが,政策手段は中央銀行再融資と再割引,差別的預金準備率及び公開市場操作である。
中央銀行再融資と再割引は中央銀行の商業銀行に対する資金供給であり,対象は特定部門と分野に絞られるため,対象を特定しない一般的な金融政策とは異なる。差別的預金準備率は預金性金融機関を規模に基づき,三つのグループ(大型,中型と小型銀行)に分け,それぞれ違う預金準備率を割り当てる。中小零細企業と農業生産者を相手とする規模の小さい金融機関ほど低い預金準備率が適用され,一定の条件を満たせば,更に預金準備率の引下げも認められる制度である。公開市場操作は,ターゲット付き中期貸出ファシリティ(TMLF),担保補充貸出(PSL)などの内容を含む。TMLFは,中小零細企業への融資が一定比率以上に達した大型商業銀行,株式制商業銀行と大型都市商業銀行を対象とする,中期貸出ファシリティ(MLF)より金利が安い中央銀行再融資である。PSLは政策性銀行である国家開発銀行を対象に開発型都市建設への資金を供給する目的から始まったが,その後,同じ政策性銀行である中国輸出入銀行と中国農業発展銀行も対象に,都市建設,輸出と農業生産を支援する金額の大きい中央銀行再融資である。
これまで,具体的な構造的金融政策として,農業支援再融資,中小零細企業再融資,三農・中小零細企業と民営企業などが関連する手形の再割引,中小零細企業融資サポートツール,輸出と農業生産を支援する担保付補充再融資,脱炭素サポートツール,石炭グリーン利用再融資,科学技術イノベーション再融資,養老事業再融資,交通物流改善再融資など,様々な名目の支援事業に対して,実施されてきたが,2022年から,更に,設備更新改造再融資,中小零細企業貸出金利減免ツール,有料道路貸出サポートツール,民営企業債券発行融資サポートツール,販売住宅引き渡し保障サポートプログラムが加わった。
このように,ここ数年,中国人民銀行は構造的金融政策手段によって,資金を特定の分野へ誘導してきたのに対して,構造的金融政策では,安定的金融政策を維持すると同時に,国民経済のボットルネックへ資金を誘導し,その解消と特定分野と企業の成長を促進するという一石二鳥の効果を発揮したと説明した。
確かに,M2(266兆4320.84億元)のGDP(121兆0207億元)比は既に2.2を超え,更なる金融緩和政策を実施することが難しい現状では,限られた資金を国民経済のボットルネックへ誘導することには一理ある,あるいは必要かもしれない。しかし,構造的金融政策は本質的には政策金融である。金融市場では効率的な資金配分機能が働かないときが政策金融の出番である。先進国も非常期に構造的金融政策を使うことがあるが,その規模は極めて限定的である。しかし,中国は違う。2022年末時点で,構造的金融政策ツール残高は6兆4465億元に達し,中国人民銀行総資産(41兆6784億元)の15.4%を占めた。中国人民銀行の対預金性金融機関債権残高は14兆3132億元であることから見れば,構造的金融政策ツールはその45.0%を占め,また,構造的金融政策ツール残高の中,政策金融銀行を対象とするPSLの残高はその半分弱の3兆1528億元にも上り,対預金性金融機関債権の22.0%になる。政策金融は金融の主役を演じてはよいのではなかろうか。
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