世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国:住宅市場の低迷を食い止められるか
(獨協大学経済学部 教授)
2024.10.28
中国住宅市場の低迷が続いている。国家統計局の発表によると,今年1月から8月まで販売した新築住宅の面積は50,812万平米,販売金額は52,425万元で,前年同期よりそれぞれ20.4%と25.0%の下落である。この住宅市場の低迷は3年前より続いている。2021年,世界がCOVID-19のパンデミックの渦中にあった2021年,中国の住宅市場は繁栄を続けた。新築住宅販売面積と販売金額はそれぞれ156,532万平米と162,730億元に達した。しかし,翌年,様子が一変した。それぞれ114,631万平米と116,747億元に下落し,下落幅は26.8%と28.3%にも達した。2023年も94,796万平米と102,990億元と下がり続けたが,下落幅が縮小し,一見収斂するかに見えたが,今年になって,再度下落は拡大した。ここで目を引くのは,販売金額と面積の下落幅である。販売金額の下落幅が面積より大きければ,住宅価格が下落することを意味する。2022年には販売金額の下落幅が面積より大きかったが,2023年には持ち直し,販売面積の下落が8.2%であったのに対して,販売金額の下落が6.0%となった。しかし,今年となって,販売金額の下落が面積の下落を4.6%上回った。これにより20年間続いた住宅価格上昇の「神話」は終止符を打たれたのである。
住宅市場のこの変化の背景には,「住宅は住むためのものであり,投機対象ではない」という中国政府の住宅規制政策が要因としてあった。不動産(住宅)開発企業に対して,資金調達を規制する「三本のレッドドライン」を実施しただけでなく,地域によっては内容が多少違うが,住宅需要側にも「三限」という制限措置が実施された。「三限」とは,①購入制限(セカンド住宅や非現地住民の住宅購入を制限すること),②住宅ローン制限(頭金を購入価格の一定比率以下に規制すること),③売却制限(購入した住宅は一定期間内の売却を制限すること)である。これらの住宅規制措置は住宅バブルの抑制に必要であるが,不動産投資依存の経済成長モデルには大きな陰りを落としてしまい,住宅市場だけではなく,マクロ経済全般も不況に陥ってしまった。
これに対して,2022年には「三本のレッドライン」と真逆に思われる「三本の矢」という政策が打ち出されたが,効果がほとんど現れなかったため,今年の9月に,中央銀行である中国人民銀行と国家金融監督管理総局が新たに次の三つの措置を採った。その1:保障性住宅(政府が低中所得世帯に提供する,基準と価格,賃料が限定された住宅)を買収した地方国有企業に融資した商業銀行に対して,中央銀行は貸出し比率を融資額の60%から100%に引上げる。つまり,商業銀行融資全額資金を中央銀行が提供することである。その2:初めての住宅購入も2回目の住宅購入も頭金の比率は15%まで下げる。その3:既存住宅ローン金利と現行の市場金利と違うとき,商業銀行と顧客との間で金利再設定を行える。
このような政策は住宅市場の低迷を食い止められるであろうか。住宅の供給と需要から考えてみよう。統計局の発表よれば,今年8月に狭義の住宅在庫(=販売中の新築住宅面積)は38,103万平米(オフィスや商業用不動産などを含めた全部不動産の在庫は73,783万平米)である。また,広義の住宅在庫面積(=販売中の新築住宅面積+工事中の住宅面積―販売した新築住宅面積)は約40億平米~50億平米と見られている。つまり,供給側は大量の在庫を抱えている。一方,2020年第七次国勢調査によれば,中国の一人あたり居住面積は41.76平米(都市部は36.52平米)に達し,住宅難の問題はほぼ解消され,住宅に対する需要は基本的に満たされたと言える。少子高齢化も進み,出生率はもちろん,2022年から総人口も減少に転じた。これを背景に,2023年,結婚数が768万組,ゼロコロナの政策で大きく減少した22年よりは増加したが,2013年の1346万組を大きく下回り,今後も減少傾向にある。当然,結婚して,新たな家庭を作るための住宅に対する需要も減っていく。このように考えると,住宅の在庫を消化するには時間が経つのを待つしかない。住宅市場の低迷は時間がかかりそうである。
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