世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2897
世界経済評論IMPACT No.2897

なぜ中国の人口が減少しているのか?

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2023.03.27

 今年初頭に発表された中国の人口は減少した。2022年の人口は14億1180万人であり,2021年の14億1260万人から85万人減少した。この減少は毛沢東時代の大躍進期に発生した大飢饉の1961年以来である。

 出産も減少した。2021年は1062万人から956万人に減少した。2021年は1000人あたり7.52人の出生数であったが2022年は6.77まで下落した。

 死亡は増加した。2022年には1041万人が死亡し,1000人あたりの死亡者数は7.37人である。

 人口減少のトレンドが続くことはほぼ間違いないが,この背景にある原因を整理してみよう。

 一つ目は政策の影響がある。1970年代後半にはすでに出産数は減少傾向にあったにもかかわらず,一人っ子政策が導入され,これがほぼ40年間続いた。長年の一人っ子政策は,社会的な通念として子供を少ないことは良いことという暗黙の了解が出来上がった。2016年に二人っ子政策へ,2021年に三人っ子政策へ転換したものの,子どもの数を「制限」していることに変わりはなく,政府が発する暗黙のメッセージに大きな転換はない。

 二つ目はコスト面である。一人っ子政策は少なく生んでより良く育てるという価値観を持っている。より良い教育を受けさせようとすればするほど,養育費が上昇する。また大学進学率の上昇もあり,教育費の負担が大きい。同時に,住居の高騰もある。中国では結婚をする際に男性側が住居を用意しなければならないという価値観を持つ(農村では高額の結納金を用意する必要がある)ため,若年層の失業率が高い中国では,男性側が結婚の前提を満たすことができない。

 三つ目は伝統的価値観の変化である。どの国も同じ経験をしているが,女性の高学歴と社会進出が進み,女性は結婚することよりもキャリアを優先することになる。競争の激しい中国社会で,出産育児はキャリアの中断であり,職を失う可能性さえある。各種調査でも,結婚よりもキャリアを優先する女性の傾向は顕著であり,ひいては婚姻数減少の遠因となっている。

 各地の政府も,複数の子どもを持つ夫婦に対し現金補助を行うなどの政策を展開している。また企業にも出産育児休暇の保障を要請し,企業もそれに対応してきている。しかし,そもそも結婚適齢期人口が減少している中で,上記要因により,平均初婚年齢もほぼ30歳にまで上昇している。生物学的な妊孕期間が短くなり,そして社会通念が「少なく生むことが良いこと」になっている以上,少子化を防ぐ効果的な手立てはないのが現状だ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2897.html)

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