世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
国際金融情勢概観
(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科 教授)
2023.03.27
客観的であり,科学的であり,中立的であると言われている国際機関である経済協力開発機構(OECD)は,本年2023年の世界経済の成長率見通しを2.2%から2.6%へと上方修正した。
但し,世界の主要各国は,インフレ対策としての政策金利の引き上げがまだ必要であり,しかし,その副作用として,景気腰折れリスクが残り,世界経済に不安も残っているとコメントしている。
世界経済のこうした不安定な状況を端的に示すのが今回の報告書のタイトルに表れていると国際金融社会は見ており,「Fragile Recovery」脆弱性を持つ回復,これを筆者なりに日本語にて大約すると,「いつ破綻するか分からぬ不安定な回復」とでもなろうか。
世界的な半導体業界の不振が顕在化,交易活動も鈍化,中国本土経済も本格的な回復に至っていない中,世界経済には不安定感が残っている。
一方でOECDは,中国本土のゼロコロナ政策の解除からくる「リオープニング(経済活動の再開)」が世界経済の回復に貢献するとの見通しを示している点は留意しておきたい。
こうした見通しが示される中,世界経済の中核国である米国の経済指標は当初予想以上に堅調に推移している。昨年来の米国金融当局による,インフレ対策としての,急激な政策金利の引き上げにより,景気腰折れリスクが米国では顕在化するであろうと言う懸念は,今のところは,幸いにも杞憂となっている。即ち,金利上昇下でも,米国では,債務者の中に,「貸し手責任」と言う概念が存在する中,金利が上がって返済できないという心配は債務者の中ではあまり表面化しておらず,金融機関が貸してくれるのであれば,借金をしてでも消費を続けると言う動きが続き,この結果,「消費が堅調に推移,これを受けて,生産サイドも比較的堅調に推移している。」ということから米国経済は当初予想以上に堅調に推移していると見られている。但し,今後も米国の政策金利が上昇し,5%を超える水準ともなると,さすがに,借金の返済が出来なくなる消費者=債務者が顕在化し,これが2008年のサブプライム・ローン問題のような形で米国金融社会に襲い掛かると,米国にはリーマンショックと同様,或いはそれ以上の悪影響を及ぼすリスクが出るのではないかと心配されているのである。そこへ,今般,ハイテク企業へのスタートアップ融資に強みを持っていると言われていたシリコンバレー銀行(SVB)が,金利上昇による預金残高急減で,保有債券の売却や増資による資金調達を発表した為,経営不安説が一気に流れ,株価も下落,その結果,取り付け騒ぎの如く,更に預金が流出し,流動性不足を背景とした債務超過状態が確認されて,SVBの経営破綻が3月10日に周知の事実となった。
米国金融当局は,預金の保護などの米国金融当局としては,異例の措置を即時示し,国際金融市場に於ける不安心理がこれ以上,拡大せぬよう,比較的冷静な対応を取っており,今のところ,問題は表面化していないが,上述した通り,そもそも米国金融界に対する不安材料がある中でのSVBの経営破綻であるだけに,国際金融市場には警戒感が残っている。
更に,国際金融市場には,これに追い打ちを掛けるように深刻なニュースが流れた。
即ち,スイスの誇りの象徴の一つと言われ,166年の長き歴史を持つ世界的な名門金融機関である,「クレディ・スイス」の経営不安説が再び流れたことが更なる深刻なニュースとなった。上述したSVB経営破綻を受けた5日後となる3月15日,クレディ・スイスの筆頭株主であるサウジ国立銀行が,「これ以上,クレディ・スイスに資金投入しない」との主旨の発言をしたことが,クレディ・スイスの経営不安に再び火をつけたのである。
サウジアラビアは今,米中覇権争いが深刻化する中,サウジアラビアが輸出する石油の決済建値,決済代金を米ドルから中国本土の人民元に切り替える検討を,中国本土の意向を受けて始めており,米ドル基軸を支えるペトロダラー制(石油決済本位制)への挑戦姿勢を示す中国本土に同調するような姿勢を,米国から,トルコでのジャーナリスト・カショギ氏暗殺事件の首謀者とされるムハンマド皇太子を軸に示し始めている。
更に,サウジアラビアは,今年に入り,その中国本土の仲介によって,犬猿の仲であるとも言われるイランとの関係改善も検討し始めた。そうした中での,今般のサウジ国立銀行のクレディ・スイスに対する動きは,「英米・スイスを軸とした現行の国際金融システムへの挑戦姿勢を,中国本土と共にサウジアラビアも示し始めた」と捉える見方が国際金融市場では出始めているのである。
はてさて,更にいつ崩壊するか分からぬ国際金融市場に向かうのか,英米・スイスがここで踏ん張り,現行の国際金融秩序を守り切るのか,我々は国際金融市場の動向を注視していかなくてはならない。
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