世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
第三次世界大戦の前兆か?:日本は宥和政策を選ぶべきでない
(九州産業大学 名誉教授)
2023.02.20
昨年(2022)2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降,海外では「第三次世界大戦が開戦するのか」と不安が囁かれている。間もなく満1年になり,幸いとしてこの1年間“第三次世界大戦の開戦”には至ってないが,以下ではそれを「都市伝説(urban legend)」として読んでもらえれば幸いである。
無気味な数字“68”
(1)第一次世界大戦
第一次世界大戦(ウィキペディのページ)の開戦日は1914年7月28日である。協商国と同盟国(中央同盟国)の間で戦われた世界規模の戦争であるが,詳細はリンクを貼ったウィキペディアから確認できるので細かい説明は省く。この1914年7月28日を数値として足すと,方程式は,19+14+7+28=68になる。
(2)第二次世界大戦
第二次世界大戦の開戦日(ウィキペディのページ)は1939年9月1日である。ドイツ・イタリア・日本などの日独伊三国同盟を中心とする枢軸国陣営と,イギリス・フランス・中華民国・アメリカ・ソビエト連邦などの連合国陣営との間で戦われた戦争である。同じく,ウィキペディアで確認できる。この1939年9月1日を数値として足すと,方程式は,19+39+9+1=68になる。
(3)第三次世界大戦の前兆(?)
第三次世界大戦の前兆(?)として,ロシアによるウクライナ侵攻は2022年2月24日である。これもウィキペディアの「2022年ロシアのウクライナ侵攻のタイムライン」欄からも確認することができる。この2022年2月24日を数値として足すと,方程式は,20+22+2+24=68になる。いずれも世界大戦の合計値は68である。1年を過ぎ,第三次世界大戦が発生していないことに,筆者は胸を撫していたが,これをきっかにいつ世界大戦に発展するか油断ができない。仮にウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に加盟した後,NATOが参戦した場合,あるいは,中国の台湾侵攻で米日が参戦した場合,いよいよ第三次世界大戦に発展するかも知れない。
台湾有事が第三次世界大戦に発展するのか?
(1)ウクライナを大いに支援すること
習近平国家主席はプーチン大統領の行動様式を真似ている。プーチン大統領はロシア連邦第2・4代大統領(任期:2000年~2008年,2012年~現在)で,首相(任期:1999年~2000年,2008年~2012年)を経験し,事実上,ロシアの“終身最高指導者”である。習近平は,自分の権限を脅かすライバルを汚職・スキャンダルの摘発によって排除した。また,2013年3月以降,党総書記に就任したあと,最長2期10年とする暗黙の任期の規定を改め,“赤い皇帝”(終身総書記)として君臨するかのように3期目に入った。権力を次の継承者に渡す気配は見られない。しかし,中国の最高指導者として君臨し続けるためには,特に大きな業績を挙げる必要がある。「強国夢」という目的達成のために,中国が取るべき手段や戦略とは「台湾を奪い取る」ことである。具体的に,その“業績作り”のための個人的な“私心”(野望)がここにある。以下に次のことを提言する。
プーチン大統領のウクライナ侵攻で少なくとも10万人以上のロシア兵が既に犠牲となった。ロシアが大敗した場合,習近平は台湾侵攻の思惑を断念するだろう。第三次世界大戦に発展させないためには,EUおよびNATOの対ウクライナへの援助だけでなく,日本も積極的な軍事物資の援助が必要と思われる。
(2)日本は宥和政策を採用すべきではない
米・戦略国際問題研究所(CSIS)の机上演習(注1)の結果を見たほんの少数の人の間では「日本は台湾有事に介入すべきでない」という宥和的な意見がある。これは大変間違った主張である。戦争を引き起こすのは,権威主義国家の指導者であり,アメリカ,日本と台湾などの民主主義国家の指導者でない。問題の本質がそこにある。
歴史的に宥和政策の「失敗」が第二次世界大戦にも見られる。当時イギリスのアーサー・チェンバレン首相は,ナチス・ドイツに対し宥和政策を採ったことで知られる。1938年9月,ミュンヘン会談において,チェンバレン,フランスのエドゥアール・ダラディエ首相は,ドイツのアドルフ・ヒトラー,イタリアのベニート・ムッソリーニとの間で,宥和策である「ミュンヘン協定」を締結した。1939年9月,ドイツ軍のポーランド侵攻を受け,チェンバレンとダラディエはようやく対独宣戦布告を行い,第二次世界大戦に突入した。しかしその後の1940年4月には,ドイツ軍のノルウェー侵攻阻止に失敗,ドイツ軍は更にベネルクス3国に侵攻を開始するに至った。この様な事態に暗転したところで,チェンバレンは5月10日に首相を辞任し,ウィンストン・チャーチルが首相に選出された。明らかに,チェンバレンの宥和政策の失策の結果と言える。
仮に日本が宥和政策を採用した場合,台湾が人民解放軍に取られると同時に,日本の領土の尖閣諸島,与那国島を含む南西諸島,沖縄から九州は,中国の手に落ちる可能性を否定することができない。“魔の手”が及んだ後に宣戦しても時は既に遅い。
(3)スパイ偵察風船を撃墜せよ
今の東シナ海,台湾海峡,南シナ海の深さはそれほど深くないため,人工衛星や偵察機で偵察することができるが,遥かに深い太平洋の場合,偵察が困難である。
台湾が人民解放軍の手に落ち,台湾東部・花蓮や台東の太平洋側で潜水艦基地を建設した場合,原子力潜水艦は直接に東京湾の近く,グアム島やハワイ島の第2列島線,アメリカの西海岸の第3列島線までに,勢力を伸ばすことが可能になる。
人民解放軍の原子力潜水艦が東京湾の外海を潜航する事態となれば,シーレーンの安全保障は脅かされ,日本は石油,天然ガスなどエネルギーの輸入ができなくなる可能性がある。それによる被害は測れず,ことは絶望的だ。
2月4日,中国のスパイ用偵察気球がアメリカのサウスカロライナ州の沖合で撃墜された。日本の上空に偵察気球が領空に飛来した場合,政府は毅然とした態度で,これを撃墜する姿勢を明確に示すべきである。現に岸田政権はこの方針を推進しており,筆者も賛成だ。
[注]
- (1)朝元照雄「中国の台湾侵略戦争に勝者なし:米・戦略国際問題研究所の机上演習」世界経済評論Impact No.2823,2023年1月23日を参照
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