世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
急速なEV化が自動車産業の提携関係転換を促す:日産・ルノー連合,対等出資に合意
(駿河台大学 名誉教授・ITI 客員研究員)
2023.02.13
日産・ルノー連合は本年1月末,仏自動車大手ルノーが保有する日産自動車株比率引き下げやルノーが近々設立する電気自動車(EV)新会社「アンペア(仮称)」への出資などで合意したとの共同声明を出した。1999年に始まった同連合の資本関係は四半世紀を経て新たな段階を迎えることとなる。合意の背景として,百年に一度と称される世界の自動車産業の急速なEVシフトがある。
日産・ルノー連合の歴史は1999年3月に遡る。当時,深刻な経営危機に陥っていた日産にグローバル化を推進するルノーが6000億円超を投じて日産株を37%取得(現在43%)するなど資本提携を強化し,事実上ルノーの傘下に入って,日産の経営の立て直しを支援することが合意された。
日仏連合の資本関係は,現在ルノーが日産株の43%,日産がルノー株の15%をそれぞれ保有する。また,フランス政府もルノー株を15%保有する筆頭株主である。なお,日産は2016年,三菱自動車に出資,34%の株を保有したので,3社連合となった。ただ,日産が保有する保有する15%のルノー株にはフランスの法律によって,40%以上の出資を受け入れる子会社の日産は親会社のルノーの株を保有していても議決権がなく,ルノーが主導権を握る資本関係が長年維持されてきた。
ルノーが深刻な経営不振に陥った日産を救済するために多額の出資をした1999年の両社の企業業績を見てみると(ルノー12月期,日産3月期),売上高,連結最終損益,販売台数は,ルノーが375億ユーロ(約4兆5000億円),5億3400万ユーロ(約650億円)の純益,230万台に対して,日産は5兆9770億円,6843億円の損益,241万台となっている。
ルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)はドラスチックな「日産リバイバルプラン」などの経営再建策を断行した。V型回復を果たした日産は2年後の2001年3月期に連結最終損益で3310億円と過去最高益を達成,息を吹き返した。近年は日産が売上高,連結最終損益,販売台数でルノーを大きく上回るようになった。2021年の事業行績は,売上高,連結最終損益,販売台数がそれぞれルノー462億ユーロ(約6兆円),8億8000万ユーロ(約1100億円)の純益,269万台に対して,日産8兆4245億円,2155億円の純益,387万台となっている。
今や,事業規模で日産はルノーを上回り,持ち分法利益や配当金の形で日産がルノーの業績を支えるなど,両社の関係は逆転しているものの,資本関係が長年不平等な状況にあることを問題視する声が日産側で根強かった。2019年には筆頭株主である仏政府(エマニュエル・マクロン大統領)の意向を受けたルノーが日産へ経営統合を提案したが,日参側が強く反発したため,撤回された経緯がある。
日産・ルノーの今後の提携関係については,2月6日の両社の取締役会での決定後,発表される予定であるが,日産側の1月30日付けの声明によると,ルノーが保有する日産株43%のうち28%をフランスの信託会社に信託した後売却し,最終的には両社は15%の株式を相互に保有し,それぞれ15%まで議決権を行使できる。また,日産はルノーが設立するEV新会社(アンペア)に(最大限15%とみられる)出資する。日産にとってルノーとの資本関係の対等化は20数年来の悲願であった。日仏連合は大きな転機を迎えることになる。
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