世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2729
世界経済評論IMPACT No.2729

“米中半導体戦争”とスマートフォン市場の動向:景気は回復するのか?

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.10.31

“米中半導体戦争”の4つの波

 中国の半導体の発展に制約を加える施策(敢えて「米中半導体戦争」と称する)として,これまでにアメリカは波状的に次の4つの制約措置を講じてきた。

(1)第1波:トランプ政権下の2019年5月以降,華為技術(ファーウェイ)および関連企業の70社を対象に,アメリカ企業の技術を含むサプライチェーンに対し,政府の許可なしにはチップの供給を禁止した。

(2)第2波:2020年12月以降,中芯国際(SMIC)などの10社の中国企業に対し,アメリカの一部の半導体製造設備,原材料に対し,輸出許可証を得ないと輸出を認めない措置を講じた。また,10nm(ナノメートル)以下の半導体製造設備はSMICなどへ輸出が禁止された。

(3)第3波:2022年8月以降,「CHIPS法案」を制定し,AI(人工知能)とHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)の対中輸出を禁止した。直接に影響を受けたのはNvidiaやAMDなどで,HPC用チップの対中輸出が禁止されたが,一年間の猶予期間が設けられた。また,3nm以下のチップ設計に必要とするEDA(電子機器,半導体など電子系の設計作業を自動化し支援するためのソフトウェア)の輸出が禁止された。

(4)第4波:2022年10月7日以降,政府の許可なしにアメリカ企業のHPC,スーパーコンピューター関連の半導体および製造設備の対中輸出が全面的に制限の対象となった。これらの規制はアメリカの技術を使用し,他国で製造する半導体チップも含まれている。

 この新しい措置で企業の売上高はどの程度の影響を受けるか,以下の種類分けで見てみた。

第1種類:①トップ5の半導体製造設備企業(アプライド・マテリアルズ(AMAT),ASML,東京エレクトロン(TEL),ラムリサーチ(Lam),ケーエルエー・テンコール(KLA))などの売上高は約25~30%減少。②台湾の設備製造企業(京鼎精密科技(フォックスセミコン),帆宣系統科技(MIC))などの売上高は5~8%の減少,③台湾のファブレス企業(世芯電子(Alchip),創意電子(グローバル・ユニチップ))の売上高は30%以上減少が見込まれる。

第2種類:①ファウンドリー(先端製造プロセス)(TSMC)などの売上高は2~9%減少,②トップクラスのファブレス(Nvidia,AMD)などの売上高は3~10%減少,③パッケージ基板(欣興電子(Unimicron),イビデン)などの売上高は5%以上減少,封止(日月光(ASE))の売上高は5%以上減少が見込まれる。

第3種類:サーバー組立(鴻海(ホンハイ),広達(クアンタ),英業達(インベンテック),緯創資通(ウィストロン))の売上高は5%以上減少が見込まれる。

第4種類:ファウンドリー(成熟製造プロセス)(聯華電子(UMC),力晶積成電子製造(パワーチップ),世界先進積体電路(VIS))には当面の影響はない。

スマートフォン市場の新動向

 去る9月7日に発表されたiPhoneの新製品のシリーズであるiPhone 14/14 Plusは,10月7日に公式発売されたが,販売不振に見舞われた。その主な理由は,iPhone13のA15 Bionicチップがそのまま使用されており,A16 BionicへのバージョンアップはiPhone 14Pro/14ProMaxに限定されていることにある。

 米ネットメディア「The Information」(10月18日付)は,情報筋に基づく報道として,iPhone 14/14 Plusは発売から2週間,販売不振の影響を受けて,生産減を行い,新たにこの新機種の市場の需要の下方修正を行った。報道によると,アップル社は少なくとも中国の製造企業1社に通知し,iPhone 14/14 Plusの部品製造を直ちに停止するように連絡した。そのほかに,サプライチェーン企業の川下企業の発注量の70~90%をカットした。果たしてどの企業であるかは,発表していないが,中国の立訊精密工業(Luxshare Precision)と台湾の和碩聯合科技(ペガトロン)の可能性が高いと述べている。

 米・労働省労働統計局(BLS)が10月中旬に公表した消費者物価指数 (CPI)によれば,食品,ガソリン,航空チケットなど多くの財・サービスでの価格が上昇している。また,9月のインフレ率は8.2%に達している。しかし,商品分類別の「スマートフォン」の価格は22%も低減している。

 しかし,このデータは直観とは異なっているかも知れない。大多数のスマートフォンは依然高価であり,高機能スマートフォンでは価格低下を見ることができない。今年秋に発売された最新機種のiPhone 14も昨年の新機種と同様に高価(ドルベース計算)で,サムスン電子の高機能スマートフォンより約1800ドルも高価である。世界のスマートフォンは高機能を追求し,平均価格も持続的に上昇している。

 なぜBLSの統計では低減するのか。BLSでは年2回にわたり新型スマートフォンのカメラ,液晶スクリーンやその他の機能の性能向上をチックしており,その基準を2019年末の製品技術に置いている。機種に当てはまるとアップルはiPhone 11,サムスン電子はGalaxy S10である。2019年以降,CPIの上昇分と比較すると,スマートフォンの技術向上に伴う価格は相対的に低減しているという。不景気による消費者の買い控えによって,スマートフォンの業者は大きな値上げを避ける戦略を採用していた。

 英国調査会社Canalysの最新報告でも同様の結果が見られる。今年第3四半期の世界のスマートフォン市場は,景気の下向きを反映し,2014年以降で最も悪いパフォーマンスを記録した。消費者は不急不要の新機種の購入を後回しにしているようだ。

 Canalysによると,9月末までの第3四半期の世界のスマートフォンの需要は9%減少,年初以降の消費不振が持続している。この需要不振は今後9カ月続くと見られている。アメリカの金利上昇とエネルギーの価格上昇は,消費者の購買意欲に低下させている。他方,中国の消費市場でも経済成長率の低下およびコロナ禍によるロックダウンの影響から,スマートフォンの販売不振をもたらした。今年,中国のスマートフォン企業の小米,VIVO,OPPOなどの販売は,2桁の大幅減を記録した。スマートフォン市場の不振により,半導体需要は減少し,その結果,それまでの半導体「不足」は「過剰」へと逆転をもたらすようになった。

 Canalysアナリストのサンヤム・チャウラシア(Sanyam Chaurasia)は,「販売の最盛期に入り,買い控えしていた消費者は,大幅な価格の引き下げ,より多くの割引を期待しており,今年の第4四半期は緩やかで安定した販売が期待できる」と述べている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2729.html)

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