世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
エネルギー安全保障と地球環境問題
(東京国際大学 特命教授)
2022.08.15
2022年2月に生じたロシアのウクライナへの侵攻は,圧倒的な戦力を有するロシア軍に対して,自国を守ろうとするウクライナ側の必死の抵抗により長期戦となっている。
ウクライナを支援する欧州諸国は,ロシアに天然ガスと石油の供給を大きく依存しているが,ロシアからの供給が削減され,また,スポット価格も高騰する中,今冬の暖房用・産業用のエネルギー需要をまかない,凍える冬に備えることができるか厳しい状況にある。
欧州諸国がこのようなエネルギー不足という厳しい状況に直面することとなった原因としては,急速に進めた再生可能エネルギーへの依存拡大と,石炭,原子力の削減への動きが大きかった。
風力発電は,確かにガス火力,石炭火力と比べて発電燃料代がかからないという利点があるが,その発電量は変動し,かつ,2021年に生じたように風況が悪いと発電量が出ない。
しかし,変動電源である風力・太陽光などの再生可能エネルギーはバックアップの設備を維持しておく必要がある。さらに,水素などで備蓄するとしてもその費用は高くつく。
また,化石燃料依存を減らすべきとして,化石燃料の生産量を確保するための投資を絞れば,生産量は急減し,当面の需要をカバーすることができなくなり,現在生じているような,石油とガスの価格の高騰が生じることとなり,世界的な物価高騰が,エネルギー価格の急上昇によりもたらされる。
2015年に採択されたパリ協定に基づき,世界各国は温室効果ガスの排出量の削減に取り組む動きを見せているが,ただし,従来から大量に消費してきた化石燃料の代替を急速に進めようとすると大きな問題が生じることになる。
そもそもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)に集う科学者が作成した評価報告書の記述に関して,米国の有力な物理学者のスティーブンE. クーニンが「自分ならこのように言う」と記した以下の内容(邦訳『気候変動の真実』日経BP,p.43)が注目される。
「この100年間,地球は温暖化している。ひとつには自然現象,ひとつには人間による影響の増大が原因である。人間の影響(最も重要なのは化石燃料の燃焼によるCO2蓄積)が複雑な気候システムに及ぼす影響は物理的には小さい。残念ながら,気候が人間の影響にどう反応するのか,あるいは自然の影響でどう変化するのかをしっかり定量化するには,我々の観測手法や理解は十分ではない。しかし,人間の影響が1950年からほぼ5倍に増え,地球は緩やかに温暖化しているものの,深刻な気象現象のほとんどは過去の変動の範囲内にとどまっている。今後の気候・気象の予測は,その目的に明らかにふさわしくないモデルに依存している」。
この本の著者は科学者としての立場から,未確定で重大な不足点がある事象に対して,結論として何かを述べてしまうことは「科学的でない」と指摘をしている。
例えば,近年100年間に生じている温暖化の間にも,「1940年から1980年の間に実は少し冷えていた」事実があり(p.58),自然変動(内部変動と自然強制力の両方)をより厳密に理解する努力をさらにしていく必要が,人間の影響で(部分的にでも)温暖化が生じていると述べるためには必要であるとする。
その他,温室効果ガスの排出量と大気中の濃度の関係も未だ課題が多くあり,モデル計算も不確実であって,気温上昇は誇大に言われており,暴風雨の頻度と強度は高まっておらず,全世界の降水量に大きな変化は生じておらず,海面上昇も過大に言われているとする。事実を確認するためには,データにあたって自分で調べることを推奨している。
クーニン氏は,排出量実質ゼロは2075年においてすら達成できないだろうし,私たちが取り組むべきなのは第一には「適応」だとする。
そして,科学的なものの見方を壊したのは誰かと述べ,マスコミ,政治家,科学機関,科学者,活動家や非政府組織(NGO),一般市民においても,利害に導かれたり,知識が不足であったり,客観的・批判的に物事を見る視点を欠いているために判断を誤ると述べる。
直近では,米国のペロシ下院議長の台湾訪問と,日本が加わったG7の声明が出たことで,中国が日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイル5発を撃ち込む事態が生じている。日本のマスコミは「落下」と記述しているが,中国の発表では狙い撃った場所に到達したと述べており,当然,日本は中国に制裁を科すべき立場にある。
ウクライナばかりでなく,東アジアにおいてもキナ臭い状況となっており,日本においては,世界の最大の課題がCO2削減であるかのような議論があるが,CO2削減よりも先に,エネルギーと食料の安全保障,さらには日本が自国領土の防衛が可能かどうか,極めて厳しい緊張下にある。CO2削減達成を超えた,国土防衛の取り組みを真剣に考えるべき場面となっていると言える。
- 筆 者 :武石礼司
- 分 野 :特設:ウクライナ危機
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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