世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2595
世界経済評論IMPACT No.2595

深刻化する少子化と異次元の子育て支援政策の重要性

小黒一正

(法政大学 教授)

2022.07.11

 日本経済が抱える問題は様々だが,最も深刻な問題は少子化ではないだろうか。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(平成29年推計,出生中位・死亡中位)では,出生数が80万人割れとなるのは2033年,70万人割れとなるのは2046年,60万人割れとなるのは2058年と推計している。2065年でも出生数は約55万人を維持でき,50万人割れとなるのは2072年と予測している。

 しかしながら,筆者はこの推計よりも,遥かに速いスピードで人口減少が加速していると思い始めている。その一つの証拠が,出生数が80万人割れとなるのは政府が想定する2033年よりも10年ほど前倒しとなる確率が高まっていることである。

 厚労省が2022年2月25日に公表した「人口動態統計」(速報値)によると,2021年の出生数は約84万人であった。ただ,84万人という数字は速報値であり,2021年における出生数の確定値は2022年9月以降に公表されると思われるが,その確定値は速報値の数字よりも3万人ほど低い可能性が高い。

 実際,2010年から2020年における出生数の速報値と確定値の誤差を眺めてみると,速報値の方が確定値よりも3万人~3.3万人ほど過大な値となっている。この傾向からすると,2021年における出生数の確定値は約81万人となる可能性が高い。また,2000年から2020年までの平均的な人口減少数は,概ね1.6万人である。

 こう考えると,2022年には出生数が80万人割れとなっても不思議ではない確率が高まっている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると,出生数が80万人割れとなるのは2033年と予測していたから,2022年に出生数が80万人割れとなれば,政府の想定よりも11年も速いスピードで少子化が進行していることを意味する。

 だが,問題はこれに留まらない。簡単な試算で確認できるが,2000年から2020年における出生数の減少率は,年間平均で1.57%となっている。この減少率が2022年以降も継続すると仮定し,今後50年間の出生数を推計すると何が分かるのか。出生数が70万人割れとなるのは2031年,60万人割れとなるのは2040年,50万人割れとなるのは2052年となり,2070年の出生数は40万人未満の約37万人となってしまう。

 政府の予測では出生数が50万人割れとなるのは2072年であるから,もし2052年に出生数が50万人を割れば,加速度的に人口減少が進む可能性を示唆する。

 このような状況のなか,政府は,内閣府の外局として,子ども政策の司令塔で他省庁への「勧告権」を有する「こども家庭庁」を2023年4月に設置する方向性で動いている。ゼロサムゲーム的な東京の一極集中是正等で解決できる問題とは思えず,こども家庭庁を中心に官民の叡智を絞り,異次元の子育て支援政策を立案し,深刻化する少子化問題に早急に対処することが望まれる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2595.html)

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