世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2544
世界経済評論IMPACT No.2544

半導体企業の新しいM&A動向:AMD,インテルの成功例とNVIDIA,環球晶圓の失敗例

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2022.05.23

AMDによるザイリンクスのM&A

 2月15日,半導体ファブレス大手企業のAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は,FPGA(field-programmable gate array:製造後に設計者が構成を設定できるプログラマブルロジックデバイス)の開発大手ザイリンクス(Xilinx)をM&A(合併・買収)により事業統合した。ザイリンクスはFPGAの分野では世界トップのファブレス企業である。

 AMDはCPU(中央演算処理装置)とGPU(画像処理演算装置)の分野を得意とし,ザイリンクスの買収後,FPGAの分野に参入することができ,データセンターの領域でインテルと対峙することができるようになった。

 買収額は500億ドルである。2020年10月27日にAMDから2社の株券交換方式(非現金支払い)の350億ドル分でザイリンクスの買収が提案された。その後,AMDの株価の上昇により,買収決定時には500億ドルの市場価値へと増えた。過去において,インテルとマイクロソフトとの協力によって「Wintel」(WindowsとIntelからの造語)効果が発揮され,両者はパソコンの世界でのソフトとハードの王者になった。この買収によって,AMDの市場価値はインテルのそれを凌駕するようになった。

 2015年6月,インテルが167億ドルでFPGA分野世界第2位のアルテラ(Altera)を買収することで合意したと発表した。12月に買収手続きを完了し,以後はインテルのFPGA部門として活動している。AMDとインテルは同じくM&Aによる買収でFPGA分野に参入した。

 2022年2月末の半導体企業の市場価値ランキングを見ると,次のようである。1位のTSMC(台湾積体電路製造)は6187.4億ドル,2位のNVIDIA(エヌビディア)は5891.5億ドル,3位のサムスン電子は4176.1億ドル,4位のASMLは2608.1億ドル,5位のブロードコム(Broadcom)は2394.6億ドル,6位のクアルコム(Qualcomm)は1889.3億ドル,7位のAMDは1853.1億ドル,8位のインテルは1834億ドル,9位のTIは1539.9億ドル,10位のアプライド・マテリアルズ(Applied Materials)は1184.1億ドルの順位となっている。

インテルによるタワーセミコンダクターのM&A

 同じく2月15日,インテルはファウンドリーのイスラエル企業のタワーセミコンダクターをM&Aで買収したことを発表した。買収額は54億ドルである。タワーセミコンダクターの売上高は約15.1億ドルで,ファウンドリーでは世界第9位の企業である。タワーセミコンダクターは特殊製造プロセスの技術を擁しており,買収したインテルはファウンドリービジネスに本格参入する。

NVIDIAのARM買収契約解消

 2020年9月,NVIDIAはソフトバンクグループ傘下のARM(アーム)のM&Aを提起した。ARMアーキテクチャとは,ARMによる設計・ライセンスされているアーキテクチャ(コンピュータにおける基本設計や設計思想)であり,ARMの持つ最強の知的所有権である。NVIDIAはM&AによりARMに対し,400億ドルの買収額を提示した。

 しかし,ARMアーキテクチャは世界のスマートフォンのチップ設計に欠かすことができないソフトのため,多くの企業の反対や独占禁止法による制約を受け,このM&A契約案は2022月2月8日に解消することとなった。なお,解約解消により売却対価の前受金としてソフトバンクグループがNVIDIAから受けていた12.5億ドルは,NVIDIAへの20年間のライセンス利用料としてソフトバンクグループがそのまま保持する。

環球晶圓のシルトロニック買収失敗

 半導体材料ウエハー世界第4位台湾の環球晶圓(グローバルウェーハズ)は,世界第5位のドイツのシルトロニック(Siltronic)に対するM&Aに失敗した。この買収についてドイツ政府は,「すべての国家の審査承認を得てから審査が開始される」が,中国政府の承認は遅れに遅れ,1月21日にようやく承認し,環球晶圓が完全な書類を入手できたのは26日であった。ドイツ政府によれば,「これにより審査に必要な手続きを期限である1月31日までに完了できず,最終的に買収は成立しなかった」としている。

 中国政府が承認手続きを大幅に遅らせたことは,完全に意図的かつ地政学上の介入である。また,ドイツ政府も中国同様に技術的手段をもって,このM&Aに介入したと言えよう。近年,ドイツはじめEUの半導体関連企業の実力は以前と比べると競合企業から劣後するようになった。このため,ドイツ政府はシルトロニックをドイツ国内に残したいという意図があった。また,中国政府も中国企業がシルトロニックを買収しようと考えていたため,環球晶圓によるM&Aを阻止する姿勢を露わにした。

 結果的に,環球晶圓は契約解消の手数料として5000万ユーロをシルトロニックに支払い,さらに同社の株式の13.6%を入手した。破綻後,環球晶圓は買収のための資金を自社工場の拡大を計画に充て,2022~24年に1000億台湾元(約4000億円)を投入する予定である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2544.html)

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