世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2508
世界経済評論IMPACT No.2508

第20回党大会を控える習政権の憂慮

坂本正弘

(日本国際フォーラム 上席研究員)

2022.04.18

目覚ましい2021年の成果

 2022年3月の人民代表者会議・政治報告は,2021年を党と国家の歴史上,極めて意義ある年だとした。第1に,中国共産党成立100周年の7月,「小康社会の実現」という国家目標達成の宣言をした。第2に,11月6中全会で毛沢東,鄧小平に次ぐ,「第3の歴史決議」を行い,中国人民共和国創立の2049年向けての,次の奮闘目標として,習近平を核心とし,格差是正の「共同富裕」の追求を掲げた。第3に,14次5か年計画を発足させ,AIなど先端技術を革新し,広大な中国市場を梃子に,世界市場を支配するとの内外双循環を提唱した。第4に人民解放軍創立100周年の2027年には軍近代化を完了し,台湾解放に触れたが,ミサイルは卓越し,海軍艦艇の数では米国を抜いている。第5に,コロナも,空前の監視体制で抑制に成功し,21年GDPの成長率は8%を超える状態となった。

習氏への権力集中

 習政権への権力集中も3選への道といえる。まず,上記,「歴史決議」は,習近平は「党の核心」だとする上に,「習近平・新時代の中国の特色ある社会主義思想」は党を主導する思想だと,名前入りで崇める個人崇拝ぶりである。第2に,党に多くの指導小組を作ったが,習近平自身は組長となり,小組は国務院の業務に強く介入している。第3に,地方政府にも,その領導性を強めている。第4に,人民解放軍も,中央軍事委員会を改組し,5大戦区に再編し,戦える軍隊を目指すが,ここでも,習氏の司令の貫徹を狙う。

コロナと共同富裕の政策不況

 習総書記・3選への道には,しかし,本年に入り,幾つかの困難が出ている。第1は,ゼロ・コロナ政策である。中国は,コロナ制圧の成功を共産党独裁体制の優位だと誇り,本年3月の吉林省や西安などでの新規感染にロックダウンで対応した。しかし,4月に入り,新規感染は上海で2万を超え,全国に広がる。当局は,上海市2千6百万人全員の検査,ロックダウン,移動の制限などで対応しているが,住民の不満が蓄積し,部分的に爆発している。中国製ワクチンの有効性に疑念がある中,中国のゼロ・コロナ政策は,結果として,中国人の多くをコロナ免疫外に置いている。上海市一部幹部が更迭され,次期首相候補の李強書記の手腕も問われるが,今後の状況次第では,習政権自体への打撃となる情況である。

 第2は,「共同富裕」のもたらす政策不況である。2021年8月の共産党中央財政委員会は,不動産開発,学習支援,ITの3産業を格差是正の重点とした。IT産業では,アリババやテンセントなど独占禁止法違反で罰金が科せられ,更に高額の寄付が強制された。学費負担が家計を圧迫するとして,多くの学習塾が閉鎖された。更に,融資条件を厳しくされた不動産開発企業は,恒大集団が典型だが,数百社が破産に追い込まれた。しかし,不動産開発業は,中国経済で大きな地位を占める。特に,固有財源に乏しい地方政府には不動産開発収入の減少は致命的である。IMFは本年1月,中国経済年次報告で「不動産部門の失速は金融や財政への悪影響のリスクがある」とし,更に「消費の拡大には有効なワクチン接種とゼロ・コロナ政策の緩和が必要」と勧告した。中国経済は政策不況だと診断で,中国政府は昨年末から景気テコ入れに政策を転換し,「共同富裕」への言及は影をひそめる。看板政策の転換は打撃で,習総書記3選反対の報道も出るが,後継者不在に助けられる状況である。

ウクライナ侵攻と中露関係

 第3に,近年,中露は30数回の首脳会談を誇り,米国は衰退過程にあり,権威主義体制が優位だと,枢軸関係を強めてきた。特に,北京冬季オリンピック時の,中露首脳共同声明は,両国の戦略的パトナーシップは無制限の友好だと誇った。しかし,中国は,ウクライナの侵攻後のロシヤとの関係には戸惑っている。ロシヤへの経済制裁には反対し,交易を拡大はしているが,3選を控え,西側との関係への配慮も感じられる。

民主主義対権威主義

 バイデン大統領は本年の一般教書で「自由は常に専制に勝つ」としたが,Jude Blanchetteは,「混迷の習近平外交」の論文で,習近平はプーチンと同じでないが,独裁権力者として冷静な判断を失う可能性は同じとする。長期に権力を握り,少数のイエスマンに囲まれ,孤独で,中国というより,習近平の外交となり,下の者は習近平の命令を待つのみとなる。豪,日,印を敵にし,香港を圧迫し,台湾の反抗を助け,米国に敵意を持ち,独裁者の誤った道を歩む。但し,中国には,危機を避ける知恵があるはずだが今回はどうかと結んでいる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2508.html)

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