世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本とウクライナで共通する課題
(長崎県立大学国際社会学部 准教授)
2022.04.18
大学では,「国際経済論」に加えて「アジア経済論」や「日本経済論」の講義を担当している。ある私立大学で今年度から,担当科目のシラバス(授業計画)で,持続可能な開発目標(SDGs)の目標を一つ記載することになった。SDGは,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で,17の目標・169のターゲットから構成されている。
シラバスのSDGs記載の要望には戸惑いながらも,考えてみた。なぜなら目標だけでも17あるからだ。「目標1:貧困をなくすこと」,「目標2:飢餓をなくすこと」,「目標3:健康であること」,「目標4:質の高い教育」,「目標6:清潔な水と衛生」と,アフリカや南アジアを対象とする経済学や経済論なら,このあたりから選ぶのだろう。日本のほか,東アジアを対象とすると,普通,「目標8:雇用と経済成長」,「目標9:新しい技術とインフラ」のどちらかで悩むのだろう。だが,さらに世界的かつ日本を含む東アジアの課題を考えて,最終的に「目標5:ジェンダーの平等」を選んだ。
世界経済フォーラムが発表する男女格差指数「Global Gender Gap Index 2021」によると,対象となる156カ国のなかで,東南アジアも含めても上位20位にアジアから入るのはフィリピンだけである。50位から99位の間に,シンガポール,タイ,ベトナム。100位以下には,インドネシア,韓国,中国,マレーシア,日本の順番で並ぶ。日本は120位である。ジェンダーの平等では,日本は先進国とは言えない。この問題が,日本,東アジアおよび東南アジアで共通課題であることは明らかである。日本に限っても,2020年までに社会の指導的地位に占める女性の割合を30%程度にするという未達成の目標も,政権が安倍,菅,岸田と変わっても決して強化されたとはいえない。先送りされている。
こうした地域のもうひとつの共通課題は,少子高齢化の人口問題である。国連の2019年の人口推計では,2020年と2100年の80年間で,下落率が世界的に見ても高水準なのは日本と韓国である。日本は40.7%減の7495万人,韓国は42.4%減少の2954万人の推計である。人口1000万人以上で,日本と韓国より人口減少率が高いのはウクライナだけで,44.2%減少の2441万人である。このほか,人口推計で大幅な減少は,タイが34.1%減少の4601万人,中国が26.0%減少の1億649万人である。
人口増減要因は,出生と死亡の自然要因と移民・難民の社会的要因に分けられ,将来の人口を考えるとき,重要な基礎指標が出生率となる。乳幼児死亡率は,とくに開発途上国では,保健衛生の向上で改善できる。世界銀行統計から,2011年から2020年まで10年間の合計特殊出生率の平均値を計算する。上記の人口推計で大幅減少の日本,韓国,ウクライナはやはり合計特殊出生率が低い。出生率が低い順番に,韓国1.14,日本1.41,ウクライナ1.43である。次にタイが1.52,中国が1.67である。こうした国々では,出生率が低いうえに,社会的増加もあまり期待しにくい。
ただし,出生率の低さでは,シンガポール1.20,マカオ,1.20,香港1.19が目立っている。人口推計の増減率では,マカオが55.8%の増加,香港が2.0%の増加のほか,シンガポールがマイナスながら2.0%にとどまっている。人口推計には,マカオや香港は中国本土からの移住,シンガポールは移民政策が考慮されているということだろう。
他方,出生率が2を超えている国もある。フィリピンが2.78,インドネシアが2.37,マレーシアが2.05である。共通する背景は宗教要因である。フィリピンはカソリック,インドネシアやマレーシアはイスラム教の国民が多数である。人口推計では,フィリピンが33.5%,マレーシアが23.8%,インドネシアが17.3%とそれぞれ大幅に増加する。マレーシアがインドネシアより人口推計で増加するのは,マレーシアがインドネシアより移民受け入れで積極的であることが影響しているのだろう。
経済学的アプローチは,経済成長や,需要供給と均衡の議論を重視する。経済政策では,前年比のGDP成長率を受けて政策の議論に陥りやすい。企業経営は,一年より短い半期や四半期で行動しがちである。
78年後の2100年は,経済政策の決定者,企業経営者,そして大学教員にとっても,次世代の話である。ただし,高校生や大学生にとっては,当事者として関わる可能性のある時代だ。
貿易・投資,イノベーション,資源・環境などの重要性を語りつつ,人口問題のほか,それとも関係がある女性の社会進出の遅れにも目配せするのも,経済学を担当する大学教員の役割である。
[参考文献]
- 大泉啓一郎(2007)『老いてゆくアジア」中央公論新社
- 小峰隆夫・日本経済研究センター(2007)『老いるアジア』日本経済新聞出版社
- 若林敬子(1996)『現代中国の人口問題と社会変容』新曜社
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