世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
奏功するASEANの米中均衡戦略
(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)
2022.04.04
米中対立が体制間競争として激化する中で東アジア各国はどのような「間合い」を取っているのだろうか。東アジア各国は中国が最大あるいは主要な貿易相手国となっており,大半の国が中国とFTAを締結するなど中国との経済関係は緊密化し中国依存が深まっている。一方,米国は重要な輸出先かつ投資国であり,安全保障面で米国と関係が深い国も多い。
米国,中国との距離や協力の度合いは国により異なっている。米国の5つの同盟国をみても,豪州,韓国は中国と2国間FTAを締結し,タイ,フィリピンはASEANとして中国とFTAを結び,日本はRCEPにより中国とのFTAが出来ている。タイ,フィリピンは一帯一路構想とアジアインフラ投資銀行に参加しており,フィリピンはドゥテルテ政権時代にPivot to China政策を進め中国との外交経済関係を緊密化させた。
日本,豪州はQuadに参加しているが,韓国,タイ,フィリピンは参加していない。韓国と豪州は米国とFTAを締結し,日本は米国と貿易協定とデジタル貿易協定を締結している。コロナウィルスの発生源についての独立調査を求め中国から主要対中輸出品の関税引上げなどの経済的威圧を受けた豪州は米国,英国とAUKUSを形成するなど米国との防衛協力を強化した。
日本と豪州は安全保障および経済安全保障で米国との関係を強化し,インドはQuadのメンバーとして米国,日本,豪州との協力を強化している。ベトナムはQuadのメンバーではないが,中国と南シナ海の領域問題で厳しく対峙している。ベトナムは5Gでファーウェイ機器の排除を行っているが,一帯一路構想,AIIBに参加し中国とFTA(ASEAN中国FTA)を締結している。
米ASEAN特別サミットの開催
こうした状況下でASEANは,リー・シェンロンシンガポール首相が「It is very desirable for us not to take sides」と述べたように米中のどちらかを選ぶことを回避している。その理由は,ASEANは米国,中国と緊密な経済関係(貿易投資,経済協力)および外交関係があることとASEAN中心性をASEANの外交の原則としていることである。米国はASEANの第2位の貿易相手国,最大の投資国である。ASEANは米国と戦略的パートナーシップ関係にあり安全保障を含む広範な分野の協力を実施している。中国との関係も緊密だ。ASEAN10か国は全てアジアインフラ投資銀行(AIIB)および一帯一路構想に参加している。ラオスとブルネイを除くASEANの8か国で中国は最大の貿易相手国であり,ASEANとしてFTA(ACFTA)を最初に締結した相手国である。ACFTAは物品貿易からサービス,投資,衛生植物検疫(SPS),貿易に関連する技術的障害(TBT)に拡大している。ASEANと中国は2003年に平和と繁栄のための戦略的パートナーシップを結び,中国ASEAN博覧会開催,ICT協力,観光協力,科学技術イノベーション協力,スマートシティ協力など200を超える協力枠組みを創るなど極めて広範な協力を実施している。
米中対立の構図の中でASEANについては,「板挟み論」や「踏み絵論」があるが,米中双方と協力を維持するASEANの米中均衡戦略(二股戦略)は奏功している(注1)。米中とも米中の狭間,インド太平洋の中心という戦略的に重要な場所に位置するASEANを重視し協力を強化するとともにASEAN中心性を尊重しているからである。
バイデン政権はASEANを重視している。その証左が2022年2月11日発表の「インド太平洋戦略」で明らかにされたワシントンでの初の米ASEANサミットの開催である(注2)。オバマ政権時代の2016年2月にカリフォルニア州サニーランドで米ASEAN特別サミットを開催したが,ワシントンでは開催していない。トランプ政権時代は,トランプ大統領が米ASEANサミットに2018年以降欠席し,2019年と2020年はオブライエン大統領補佐官を出席させ,ASEAN側の不興を買うなど米国への信頼度が大きく低下したことは記憶に新しい。
2016年2月15日に米ASEAN特別サミットでは,米国のASEAN支援の柱となっている米ASEANコネクト(US-ASEAN Connect)が発表された。米ASEANコネクトは国のASEANへの経済的関与の戦略的枠組みと位置付けられており,ASEANの経済統合支援と米国のASEANとの貿易と投資の増加を目的としている(注3)。米中の体制間競争がASEANが中心的な位置を占めるインド太平洋で激化し,ロシアのウクライナ侵攻によりルールに基づく国際秩序が挑戦を受ける中で開催されるワシントンでの初の米ASEANサミットで,米国はASEAN関与政策をどのように深化させていくのか注目される。
[注]
- (1)詳細は,国際貿易投資研究所(2022)『アジアの国際経済環境の変化とASEANの対応』を参照願う。
- (2)バイデン政権のインド太平洋戦略については,石川幸一(2022)「バイデン政権,インド太平洋戦略を発表:同盟国,パートナーとの連携で中国と競争」,世界経済評論インパクトNo.2426。
- (3)米ASEANコネクトについては,石川幸一(2022)「米国のASEANへの関与と経済協力」,アジア研究シリーズ107『新たな国際経済環境とASEANおよび各国に対応』亜細亜大学アジア研究所所収を参照願う。
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