世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2478
世界経済評論IMPACT No.2478

ロシアによるウクライナの侵攻に関する随想

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2022.03.28

 ロシアがウクライナに軍事侵攻した2月24日から,このコラムを執筆している時点(3月22~24日)で約1ヶ月が経過した。この間に,激変ともいえる国際情勢の動きがあったが,現時点で私が思うことについて,述べていきたい。

人類の愚かさ

 人類は産業革命以降,科学技術を発展させて,技術革新により経済も発展させてきた。それに伴い,貧困を減少させて,全体として繁栄した世界をもたらした。このようにみると人類は進歩しているように見える。しかし,現在のロシアとウクライナの軍事衝突はいかに人類が愚かであり,近視眼的で過去の経験から学習しないかを思い知らされる。第二次世界大戦以降だけでもベトナム戦争とアメリカの撤退,アフガニスタンからの旧ソ連軍の撤退,アメリカによるアフガニスタンとイラクへの軍事介入とアフガニスタンからの撤退などから分かるように,軍事力だけでは統治はできないことを示す事例は多い。にもかかわらず,またこのような軍事力の行使が行われている現状は,人類が進歩しているのか,疑問に思ってしまう。

 このような人間の愚かさをさらに実感させるのは,過去の経験から学ばないだけではなく,今回のロシアによるウクライナの軍事侵攻は尤もらしい正当化の主張すら一貫性がないということである。それは,ロシア側の攻撃理由の主張の変化から明らかである。

ロシア側の攻撃理由の主張の変遷

 攻撃当初はウクライナ東部に居住するロシア国籍所有者が迫害や大量虐殺を受けており,自国民保護のために軍事介入したと主張していた。だが,この主張を裏付けるような報道,例えば,解放軍としてロシア軍が歓迎されるなどの映像がなく,また客観的な証拠がないため,その信憑性が疑わしくなると,次にウクライナは核兵器開発や生物化学兵器を極秘裏に開発していると主張した。しかし,現時点ではこの主張を裏付けるような報道,例えば,核兵器や生物化学兵器が発見されたというような報道もなく,その信頼性が疑われており,このことを声高に主張することはなくなった。そして,新たな正当化の主張もない。

 ここから明らかになることは,おそらくこのロシアによる軍事侵攻の本当の理由は,ウクライナをロシアに併合させて,かつての旧ソ連時代の影響圏を復活させたいというものであろう。これをカムフラージュするために,いろいろな理由を捏ねくり回しているのである。

 この軍事侵攻の今後の展開を占う上で,鍵となるのは,おそらく中国の存在である。中国は,アメリカのアフガニスタン撤退に関して,「自国の価値観と政治制度を他国に押し付ける政策は失敗に終わると証明した」とコメントした。また,中国政府は「各国の主権・領土の保全を尊重・保障する」と表明している。また,中国とロシアの蜜月とも言える無限(no-limit)のパートナーシップの関係であることも表明した。このような立ち位置にいる中国の動きが今後の行方を左右する。

国際関係への影響

 ロシアによるウクライナの侵攻が大局的に見て,今後どのような展開するかを考える上で,重要な要素はこの紛争が拡大して,第3次世界大戦へ到るのかということである。もし中国がロシアに経済的・軍事的支援をすれば,世界はおそらくロシア・中国・ベラルーシ陣営と米欧日陣営の2つの大きな枠組みに分かれていくであろう。これは,経済面ではブロック経済化を促す方向に働く。米中関係は,この軍事衝突前から緊張関係が続いており,経済面でもデカップリングが進んでいた。中国はロシア側につけば,米欧日は中国にも制裁を課すことになり,政治・経済の両面で,ロシア・中国・ベラルーシ陣営と米欧日陣営の二極化が加速する。これは,最悪の場合,第3次世界大戦へと発展していくことも考えられる。

但し,中国がロシアに支援を提供せず,かつ米欧とも協調せずに中立的な現状の立場を堅持するなら,この紛争は局地的なものになる可能性が高い。しかし,この場合,この紛争が泥沼化していく可能性も高くなる。

 最後に,この紛争の行方がどうなるかは,不確実性が高すぎて,はっきりしたことは言えない。それは,冷戦時代の米ソの代理戦争と異なり,ロシア軍が前面に出て戦っており,核兵器の使用も否定していないからである。しかし,これだけははっきりと言える。それは,この紛争は今後の世界の行方を混沌させて,かつ暗いものにさせるであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2478.html)

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