世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ポンペオ前国務長官が台湾での叙勲式:講演会で何を語ったのか
(九州産業大学 名誉教授)
2022.03.28
(1)叙勲式
3月3日午前,米前国務長官のマイケル・ポンペオ(Michael Richard Pompeo)は総統府で蔡英文総統から「特種大綬景星勲章」が叙勲された(蓬佩奧接受蔡英文總統贈勳:美國永遠與台同在)。叙勲式には夫人のスーザン(Susan Pompeo),前国務省国務長官中国政策企画主席顧問の余茂春(Miles Maochun Yu),「美国価値観政治行動委員会」(Champion American Values PAC ;CAVPAC)CEOのジム・リチャードソン(Jim Richardson)などが,アメリカと台湾の国旗の間に「堅若磐石」(堅きこと磐石のごとし)という文字が添えられたマスクを着けて列席した。
蔡英文総統は叙勲の理由として,長期にわたり台湾の国際参加を支持し,台米関係に多くの特筆すべき貢献をもたらしたことに対する台湾人民からの感謝の意を示したものであると述べた。具体的には,台湾を「民主主義へ転換したサクセスストーリーと,善良なパワーを有する信頼できるパートナー」であると,常日頃より支持してきた。また,台米往来に対する制限の解除(注1),台湾に対する武器輸出の常態化,台米高級官僚の相互訪問促進(注2)など台米関係の深化に特筆すべき貢献をしたことを挙げた。
さらに,蔡総統は,「ポンペオ氏のイニシアティブにより,ガバナンス,経済,教育,公共衛生などの多くの領域で台米対話のメカニズムが構築された」と述べた。特に経済分野では「台米経済繁栄パートナーシップ対話(EPPD)」の設立,「貿易投資枠組み協定(TIFA)」の協議を再開させた。蔡総統は「今後,TIFA協議を加速させ,台米間の経済,貿易関係がさらに緊密になることを期待している」と述べた。
祝賀晩餐会は頼清徳副総統主催であり,円山大飯店(グランドホテル台北)で行われた。ホテルは丘の上に建ち,窓からは遠くにアメリカの国旗と「Mr. Pompeo」,「Welcome to TW」,「謝謝民主夥伴」(民主パートナーに感謝),「力挺自由台灣」(自由台湾を支持)と「TW ♡ US」などの文字が点灯する超高層ビル「台北101」を眺めることができる。台湾人民のポンペオへの感謝を示す,感動的なサプライズである。
(2)講演会
4日午前中,ポンペオは遠景基金会の主催で,君悦大飯店(グランドハイアット台北で開催された講演会に出席した(蓬佩奧在台灣發表專題演說)。
ポンペオは講演の中で,「台湾は自由民主主義の模範だ。冷戦時にアメリカが西ベルリンを防衛したように,アメリカは台湾を支援するべきだ。アメリカは50年間にわたる曖昧な政策を改め,外交的に“中華民国台湾”を自由な主権国家として承認するべきだ」と述べた。
そして,「台湾が独立する,しない,の問題ではなく,台湾は既に政治,外交の主権を有する中華民国台湾という国名の国家である。台湾人民による自由民主主義の主権国家であることを国際社会は尊重すべきだ」とした。
ポンベオの講演概要は以下のとおりである。
(1)第2次世界大戦を回顧すると,ナチスの歴史に鑑見て,習近平は香港を掌握したあと,次には台湾,その次々は南シナ海と尖閣諸島へと侵略を進めるだろう。我々はその場逃れを続けるではなく,自由民主主義を強力に支持し,公約を守らない相手(英中共同声明で,香港の資本主義の制度で50年間維持される約束を破ったことを指す)との協議を拒否すべきである。
(2)過去において,アメリカの対中関与政策は,中国人民に対し自由を供与することが出来ず,稚拙な段階で挫折した(筆者注:キッシンジャーの対中関与政策を批判)。現下のウクライナ情勢に関しては,中国はウクライナとの間に戦略的パートナーシップ協定を締結,国家主権と領土に関し互いに尊重,承諾するとしていたが,中国は既にこの協定も反故にした。
(3)中国共産党(CCP)の数々の邪悪な行為,CCPが世界支配の野望を抱いていることを反映している。CCPの独裁者は経済力とハイテクを駆使し世界を牛耳ろうとしており,このリスクは世界中の脅威となっている。多くの国がこの考えに同調している(筆者注:ポンペオは「中国」と「CCP」は異なるものとして区別している)。
(4)CCPは武力で台湾の侵略と統治を試みようとしている。1つは,CCPの指導者は台湾を掌握することで,共産主義の終極的な目標を達成できると考えている。また,習近平は,中国はアメリカを凌駕できると信じており,アメリカの台湾支援に対しても挑戦的だ。よって習近平は危険人物とみなされている。中国の台湾に対する野心は,恐怖と偏執によるものだ。台湾は自由と民主主義の実践に成功した模範的な存在である。この模範的な存在は,CCPの威信と権威を大きく損ね,圧迫され続けている中国の人民にも大きな影響を及ぼしている。
(5)米台関係の強化は,中国への対抗と地域繁栄に極めて重要であることを,ポンペオ自身の国務長官在任中に,強く認識するようになった。これは今もこれからも,アメリカの外交政策上で極めて重要で,アメリカは台湾を強く支持する必要がある。歴史の教訓から学ぶこととして,冷戦時にアメリカは西ベルリンを防衛したが,仮に西ベルリンが陥落していたらドイツの自由は死を迎えていたであろう。台湾についても同じだ。
(6)現在,ポンペオ自身は民間人の身分で訪台しているが,アメリカが50年来,台湾関係を「曖昧政策」で対応してきたことを変化させる必要があると痛感する。これはアメリカの対中華民国台湾に関する外交承認と関わっている。アメリカは中華人民共和国との関係も持続的に維持し,一方では,アメリカは中華民国台湾を自由な主権国家として外交承認するべきである。
(7)台湾は独立するのではなく,既にこれまで存在した事実を国際社会が承認すれば良いのである。台湾の指導者は独立を宣言する必要がない。台湾は既に独立した国家であり,国名は中華民国台湾だ。アメリカ国民と政府は,台湾の政治,外交と主権を承認すべきだ。自由で民主主義の主権国家である台湾人民は世界から尊敬される存在だ。
[注]
- (注1)朝元照雄「なぜ米・国務長官が「米台関係に対する自主規制」を解除したのか?」世界経済評論Impact No.2039,2021年2月8日。
- (注2)朝元照雄「米使節団の30時間来台訪問:どんなシグナルを示すのか」世界経済評論Impact No.2455,2021年3月14日。
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