世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2467
世界経済評論IMPACT No.2467

中国の労働市場:1000万とミスマッチ

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2022.03.21

 人口減少が迫ってきているとはいえ,中国は人口大国である。都市人口9億1425万人の中で,約半分の4億6773万人が都市就業者数である(2021年数値)。すなわち,安定的な経済発展には5億人弱の職を確保することが必要である。

 とはいえ,毎年というフローベースで5億ということではなく,流動する部分はその約2%の「1000万」である。そこで「1000万」と「ミスマッチ」という点から中国の労働市場をみてみよう。

 新規の労働市場参入分は1000万人である(Sun 2022)。中国では毎年1000万人程度の大学生が卒業し,都市労働市場に参入する。大学進学率は55%を超えているので(2020年数値),大学生未満の学歴の若者は45%,つまり約900万人近くが新規に労働市場に参入する。この二層の若者を足した若年労働者(16歳から24歳程度)は毎年2000万人近くとなり,彼らが新しく仕事を探すと考えられる。

 次に労働市場からの退出分,いわゆる退職労働者の数を考えてみよう(Sun 2022)。公式的には第14次五カ年計画期の2021年から2025年まで毎年約700万人の就業者が退職すると見積もられている。大躍進期直後の出生率の高い時代に生まれた50代後半(中国の団塊世代)があと数年で退職していくことを考えると,おおざっぱに約1000万人近くが現在の仕事から去っていくということになる。

 単純に,新規参入2000万人−退職人数1000万人とすると,毎年中国は1000万人分以上の雇用機会を創出しつづける必要がある。

 中国全体の雇用機会を考えてみよう(Mullen and Tang 2022)。中国は今年1100万人分の仕事を作り出すことを目標にしている。一昨年は1269万人分であったことを考えると妥当な目標である(識者によっては,1300万人分の雇用機会の創出が必要とみているが,退職人数が700万人であるとすれば,非常に妥当性の高い数値である)。このように,中国政府は毎年約1000万人分の雇用機会が必要と考えていることになる。

 マクロ数値でみる限り,中国の雇用環境が悪いわけではなく,むしろマクロ的には需要と供給はバランスしているとみていいだろう。今年1,2月だけに限ってみると,昨年後半からの景気回復,小売りなどの消費,インフラなどの投資支出は拡大しており,政府は163万人分の仕事が作り出されたとしている。このペースで雇用機会が作り出され続ければ,約1000万人分の仕事が提供できることとなろう。

 問題は雇用のミスマッチである。人がやりたい仕事と人を必要とする産業がマッチするわけではない。都市部失業率は昨年12月の5.1%,今年1月の5.3%,そして2月は5.5%と上昇している。1,2月の若者(16歳から24歳)の失業率は,昨年11月12月の14.3%から15.3%に上昇している。また昨年5月の「招聘」という就職アプリの調査によると,2021年度生の56.9%のみ(約570万人)が正規の職に就いたとみられており,2020年の75.8%からすると雇用状況はよくない(Sun 2022)。

 一方,ブルーカラーや製造現場の技術職等は不足している(Nulimaimaiti 2022)。労働需要が高いために,大卒の給与とブルーワーカーの給与が逆転しつつある。公式統計によれば,2020年の農民工(大部分がブルーワーカー)の月平均給与は6214元,前の年より6.2%増加している。ギグエコノミーのタクシードライバー,配達員は月9000元以上の所得である。しかし,比較的高給にもかかわらず単純作業労働者を必要とする産業の労働力不足は深刻になりつつあるという。政府予測では2025年までに数千万の仕事が埋まらないとみている。

 このように中国では,1000万人分の雇用創出と産業間の雇用調整が課題である。

[参考文献]
  • Nulimaimaiti, Mia (2022) China’s factories are wrestling with labour shortages. Age-old prejudice partly explains why, South China Morning Post, 3 January, 2022
  • Sun, Luna (2022) China’s young jobseekers confront challenges, seek new opportunities as economy undergoes profound transition, South China Morning Post, 2 March, 2022
  • Mullen, Andrew and Tang, Frank (2022) China’s economic recovery ‘better than expected’, but coronavirus outbreak, Ukraine crisis impact looms, South China Morning Post,15 March, 2022
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2467.html)

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