世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2392
世界経済評論IMPACT No.2392

中国経済が長期的に目指しているのは「現代化」である

岡本信広

(大東文化大学国際関係学部 教授)

2022.01.17

 中国は何を目指しているのか? そのキーワードは「現代化」である。「現代化」という中国語は「近代化」と訳されることも少なくないが,本稿では「現代化」として論じる。

 ここでは中国経済が目指す「現代化」について歴史を振り返って,考察したい。

 まず,「現代化」というワードは,毛沢東の4つの現代化に遡る。1949年に新中国が成立して以降,1949年の第7期二中全会で毛沢東は「農業国から工業国への現代化」を強調し,1954年の全人代で「工業,農業,交通運輸業,国防の現代化」と発言した。そして,1964年の全人代における政府活動報告で周恩来は「農業,工業,国防,科学技術の4つの現代化」を目標として提起した。交通運輸業がなくなり,科学技術に置き換わった。これが4つの現代化の原型となる。ここでは第一歩として最初の15年間で工業を独立的かつ比較的整ったものとし,世界の先進的な水準にするということ,第二歩として20世紀末に工業を世界の最前列とし,農業,工業,国防,科学技術の現代化を全面的に成立させるとした。

 しかしながら文化大革命でこの目標はとん挫することとなるが,1975年の全人代で中国は改めて「4つの現代化」が目標であることを再確認した。

 1987年の第13回党大会において,三段階発展戦略(三歩走)が鄧小平より提出される。第1段階では1990年までに国民経済の倍増を通じて,「温飽」(衣食)問題を解決する。第2段階では,20世紀末までに「小康」(まずまずの生活)を実現する。第3段階は,21世紀半ばまでに,1人あたりGDPは中東先進国の水準に達し,人々の生活は比較的「富裕」となり,基本的な現代化を達成する,というものであった。

 1997年の江沢民は第15回党大会の報告で「鄧小平理論の偉大な旗印を高く掲げ,中国の特色ある社会主義事業の建設を21世紀に全面的に推し進める」とし,「中国共産党成立100周年に小康社会を全面的に建設し,新中国成立100周年に富強な民主文明と調和のとれた社会主義現代化国家を建設する」と強調した(二つの百年)。すなわち,2020年に全面的な小康社会の状態に到達させること,2049年に社会主義現代化国家になるという目標を掲げた。

 2017年の第19回党大会において,習近平は三歩走戦略目標における,「温飽」(人民の衣食問題)を解決し,人民の生活が全体的に小康レベルに達するという2つの目標はすでに到達していることを確認し,2020年(共産党成立100周年)までに全面的小康社会を完成させることを強調した。第2の百年(新中国成立100周年)を目指すにあたっては,最初の15年(2020年から2035年)を第一段階として,全面的な小康社会を基礎に社会主義現代化を基本的に実現する,とした。第二段階は,2035年から21世紀中葉にかけて,中国は富強民主文明調和のとれた美しい社会主義現代化強国になるという目標を提起した。

 このように,中国が目指す将来像は「社会主義の現代化」である。そもそも鄧小平は貧しいのは社会主義ではないと言い切り,改革開放に舵を切った。共産党が主導する社会主義システムを維持しつつ,市場経済による人々のモチベーションを活用して,農業,工業,国防,科学技術面での「現代化」を実現するのが中国の長期的目標である。

 この「現代化」は我々のいう「発展」や「開発」に近いものであろう。経済水準の上昇は人々のライフスタイルを変化させ,社会や政治にも影響を及ぼしていく。しかし,中国は社会主義を標榜しており,この旗幟は鮮明だ。この意味で,中国の現代化は政治以外での経済社会構造の変化を指し示すものだと考えてよかろう。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2392.html)

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