世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2368
世界経済評論IMPACT No.2368

カーボンフリー火力なしにカーボンニュートラルなし

橘川武郎

(国際大学 副学長・大学院国際経営学研究科 教授)

2021.12.20

 COVID-19のパンデミックがもたらした経済危機からの回復を環境重視の投資の活性化によって実現しようとする「グリーンリカバリー」の考え方が,世界的に広がりつつある。この考え方はもちろん正しいが,進め方を誤ると失敗する。

 誤った進め方の典型は,「再生可能エネルギー最優先」を掲げて,他のエネルギー源の役割を否定するやり方だ。「再生可能エネルギー主力電源化」という言い方であれば,他の電源を補完的電源として容認するニュアンスをもつ。しかし,「再生可能エネルギー最優先」という表現は,他の電源を排除するニュアンスが色濃いと言わざるをえない。

 人類がめざすカーボンニュートラルの達成のためには,太陽光や風力を中心とする再生可能エネルギーが主役となることは,間違いない。ただし,これらは「お天道様任せ」「風任せ」の変動電源であり,なんらかのバックアップの仕組みが必要となる。バックアップ役にまず期待されるのは蓄電池であるが,蓄電池はまだコストが高いし,原料調達面で中国に大きく依存するという問題点もある。したがってバックアップ役として火力発電が登場することになるが,二酸化炭素を排出する従来型の火力発電ではカーボンニュートラルに逆行してしまう。そこで,燃料にアンモニアや水素を用いて二酸化炭素を排出しない「カーボンフリー火力」が必要になるのだ。つまり,カーボンニュートラルを実現するためには,再生可能エネルギーとカーボンフリー火力ががっちりタッグを組むことが不可欠なのである。

 カーボンニュートラルの達成にとって主戦場となるのは,二酸化炭素を多く排出する非OECD諸国である。これらの諸国では石炭火力への依存度も高い。日本が主唱するカーボンフリー火力という手法は,非OECD諸国のカーボンニュートラル化に大きく貢献しうる。既存の火力発電設備を使い続けつつ,燃料をアンモニアや水素に転換することによってカーボンニュートラルを実現する,実効性の高い移行戦略だからだ。

 この移行戦略は,火力発電そのものを否定的にとらえる欧州式の発想からは生まれようがない。グリーンリカバリー成功のカギ,そしてカーボンニュートラル達成のカギは,再生可能エネルギーとカーボンフリー火力とを同時並行的に推進することにあると言えよう。

 ただし,この移行戦略を推進するにあたっては,明確なロードマップを提示することが必要不可欠である。石炭火力の燃料転換を進めるに当たっても,いつまでにどのようなペースでアンモニアの混焼率を高めるか,何年にアンモニア専焼を実現し石炭の使用を停止するか,これらの点を明示しなければならない。それがなければ,「石炭火力の延命に過ぎない」という批判に対して有効な反論を展開しえないだろう。

 カーボンフリー火力という日本が提唱する移行戦略はすばらしい。ただし,明確なロードマップの提示がなければ,それは「絵に描いた餅」になりかねない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2368.html)

関連記事

橘川武郎

最新のコラム