世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2296
世界経済評論IMPACT No.2296

コロナ以降の世界はどう変わるか:米中対立を軸に

安室憲一

(兵庫県立大学・大阪商業大学 名誉教授)

2021.09.27

 SARS(2002年11月広東省仏山市),コロナ(COVID-19,2019年12月武漢市)ともに中国が発症地であった。次のパンデミックも中国原産になる確率が高い。国連は感染症対策の世界機構を組織して次のパンデミックに備えなければならない。各国も人間の国際移動を制限して防疫体制を厳格化するだろう。それは取りも直さず中国包囲網に通ずる。いずれにせよ,中国を中心に回ってきた21世紀初頭の世界経済は音を立てて方向転換している。グローバル志向の時代から,同盟国志向,そして国内志向へと大きく舵を切る。

 じつは世界経済システムの転換はコロナ以前から始まっていた。主流の産業は,製造業(大量生産・大量販売型)から情報技術産業へ。グローバル化(海外展開)から国内回帰(国内雇用,固有技術開発と保護重視)へ。海外の生産拠点の脱中国化,タイ,ベトナム,インドネシア等への移転へ,と動いていた。2020年のコロナの襲来は,この傾向を加速した。米中関係が悪化する中,経営課題は,いかにして中国からフェイドアウトするかである。

 中国が直接投資の対象から除外される要因を作ったのは習近平氏である。彼は国家主席として,「中国を世界ナンバーワンの国(経済・軍事)にする」と宣言した。しかし中国に押し寄せる「少子高齢化」と,世界に対する高い貿易依存度から考えて達成困難といえる。

 習近平氏の世代は文化大革命によって大学進学や海外留学が不可能だった。国際経験がないだけでなく,自由主義経済の知識もない。おそらく,第二次世界大戦後に確立したブレトンウッズ体制の意義も理解できていないだろう。

 今の中国の若者は海外留学で豊富な国際経験を持っている。彼らは習近平氏の主張する「一帯一路」政策があまりにも国益重視すぎて,諸外国に受け入れられるとは思っていない。総じて中国の外交は自己中心的である。これが中国の「大国主義」だとすると,周辺国から敬遠されるのは目に見えている。北朝鮮すら中国政府によるコロナワクチンの提供を断っている。かつての友好国すら距離を置き始めている。

 中国にとって厄介なことは,米国が本気で自由主義陣営を糾合しはじめたことである。実質的には日本を加えた新アングロ・サクソン同盟である。これは中国とロシアの「大陸同盟」に対抗する海洋国家の「海からの包囲網」である。これに島国の台湾も加えようというのがアメリカの新戦略である。半島国家の韓国は「海洋国家」に変身すべく急ぎ改革中である。

 すでに台湾はアメリカにとって情報技術産業の要になっている。アメリカで半導体(ロジック)を開発・設計し,台湾のTSMCが製造し,欧米日が製品化する。韓国もサムスン等がメモリーの生産で重要な貢献をするが,台湾の重要性が際立っている。とくに乗用車がEV・自動運転に転換すると,自動制御システム(半導体)に対するニーズが高まるので,台湾の重要性はさらに高まる。台湾防衛の観点から,アメリカは中国への半導体の技術流出に神経を尖らせ,厳しく制限するだろう。もちろん中国企業による外国企業の買収(M&A)にも厳しい規制がかかる。

 アメリカがユーラシア大陸に対する関心を失う主な原因は,アメリカのシェールオイル・ガスの生産が産油国並みに成長したことにある。つまり,アメリカは中東石油に依存する必要がなくなった。だからシリアやアフガニスタンから撤兵しても困らない。むしろ,タリバン勢力,とくに「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)や「トルキスタン・イスラム党」(TIP)は中国共産党の迫害から逃れてきたウイグル人によって構成されるので,彼らを戦力化できると考えている。彼らは新疆ウイグル地区で虐待されている同胞の救出に向かうだろう。アメリカがアフガニスタンから手を引けば,中国はイスラム兵士の脅威に晒される。アメリカが撤兵する際に大量の武器弾薬を残してきたのも計画的行動だったかもしれない。

 アフガニスタンの立場によく似ているのが韓国である。韓国には米軍が駐留しているが,撤退する可能性はある。韓国は自由主義陣営の突端に位置するが,中国経済への依存が大きい貿易立国である。貿易のGNP比率は63.51%(2019年)もある。しかも対中依存度は輸出で24.8%,輸入で20.5%(2018年)である。ちなみに,韓国の米国依存は輸出で12%,輸入で10.6%,対日依存は輸出で4.7%,輸入で11.5%である。つまり韓国最大のお客さんは中国であり,敵対するわけには行かない。

 韓国は,経済は中国,防衛はアメリカに依存するという選択肢で来たが,もはやこの戦略は破綻している。米中対立で外交が空中分解する中,反日でかろうじて国内を纏めている。しかし,反日政策は「日本技術のコピー戦略」で産業を伸ばしてきた韓国にとって自殺行為である。反日を継続すれば,日本から資金や投資だけでなく,技術も提供されないだろう。さらに中国に顔を立て,対中防衛網としての役割を拒否すれば「第二のアフガニスタン」になる可能性が高い。韓国が北朝鮮と戦う意思がないのなら,米軍は撤退するだろう。そして,タリバンのように北朝鮮軍が進駐してくる。

 アメリカは自由主義陣営による対中包囲網の先鋒として,韓国と台湾を天秤に掛けるだろう。韓国の次期大統領が反日・反米で親中・親北朝鮮路線を選ぶなら,アメリカ軍の撤退が現実になるかもしれない。米軍の精鋭部隊の移転先は台湾だろう。日本もこの動きを黙って見ているわけにはいかない。中国の台湾攻略の拠点にされないために,沖縄の先島および尖閣諸島の防衛に注力しなければならない。習近平政権の武力行使を抑止するためには防衛力増強と外交交渉が鍵を握る。新しく選ばれる日本の首相は,米国政府と協力するだけでなく,中国政府とも交渉し,米中間の利害調停を果たさなければならない。このままでは手が積んでしまう中国政府は,日本の新首相に秋波を送るタイミングを慎重に選んでいるにちがいない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2296.html)

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