世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ピュー・リサーチセンター調査に見る世界の中国観
(九州産業大学 名誉教授)
2021.08.02
米調査機関のピュー・リサーチセンターは6月30日,世界主要先進17カ国・地域における「中国のイメージに関する世論調査」を発表した。これによれば「中国は個人の自由を尊重しない」との見方が大多数の国でこれまでになく強まっている。本稿では,この世論調査の概要を紹介し,分析を加える。
同調査は,2021年2月1日から5月26日までの期間に,アメリカ,カナダ,スウェーデン,オランダ,ドイツ,ベルギー,フランス,イギリス,イタリア,スペイン,ギリシャ,日本,オーストラリア,韓国,台湾,ニュージーランド,シンガポールの17カ国・地域で1万8,850人の成人を対象に実施された。
調査の結果,特に注目したいのは中国に対し「否定的な見方」(most places have negative opinions of China)が過半数を占める国・地域は,その比率が高い順に日本(88%),スウェーデン(80%),オーストラリア(78%),韓国(77%),アメリカ(76%),カナダ(73%),オランダ(72%),ドイツ(71%),台湾(69%),ニュージーランド,ベルギー(67%),フランス(66%),イギリス(63%),イタリア(60%),スペイン(57%)と17カ国・地域のうち実に15に及んだことだ。逆に中国を「好ましい」と回答したのはシンガポール(64%)とギリシャ(52%)の2カ国のみであった。
ピュー・リサーチセンターのデータによれば,日本の中国に対する否定的評価が高まった年は,2002年(42%)から2006年(71%)の間である(2003~2005年の日本の評価がない)。
この背景には,2001年の小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝を引き金として,2004年7月に重慶で開催されたアジアサッカー連盟(AFC)の「アジアカップ2004」で,君が代演奏時や試合中の激しいブーイング,観客による反日的行為がなされたこと。また,2005年3月の歴史教科書問題や日本の国連安保理常任理事国入りに反対する署名活動を中国が起こしたこと。同年4月以降の反日デモによる日系スーパーマーケット等の破壊など,暴徒化した中国の反日運動の影響がある。近年では,尖閣諸島付近での中国公船や海上民兵の活動,や海警法の施行,宗教への弾圧,チベットや新疆ウイグル自治区におけるジェノサイド(集団殺害),香港の「国家安全法」の施行による議員,メディア関係者などの逮捕が日本の中国に対する否定的評価に大きく影響している。
中国は,絶対に譲ることのできない「核心的利益」と称し,他国の口出しを「内政干渉」と言い放ち基本的人権を踏みにじる行為を続けている。また巨大経済圏構想の「一帯一路」に関連する国々に圧力をかけ支配下に置こうとしている。こうしたことも日中関係の更なる悪化や,欧米諸国による中国の人権侵害に対する不満の高まりをもたらしたと考えられる。
また,中国がWTO加盟時に約束した国内市場の開放などを実行していない点。香港の「一国二制度」を50年不変とする約束を僅か23年で「一国一制度」に大きく変化させた点。習近平国家主席とオバマ大統領が交わした南シナ海の島礁非軍事化の約束を反故にした点。東シナ海の尖閣諸島付近,台湾海峡などで連日繰り返される軍機・軍艦の侵入や恫喝なども,先進諸国が中国を「好ましくない」と回答した主な理由であろう。
一方,中国の「自由と人権の無視」については,スウェーデン(95%),韓国(92%),オランダ・オーストラリア(91%),アメリカ・日本(90%),イタリア(89%),カナダ・ベルギー(88%),スペイン・ニュージーランド(87%),ドイツ(85%),イギリス(84%),フランス・台湾(83%),ギリシャ(75%),シンガポール(60%)の順で「好ましくない」としており,殆どの国々は中国の「自由と人権の無視」に厳しい評価を下している。
中国のコロナ(COVID-19)への対応について12カ国の回答結果を見ると,「2020年夏時点と比較して上手く対処した」(China is handling COVID-19 well than said the same in summer 2020)との回答が「対処していない」を凌駕した国は,スペイン(67%),イタリア(65%),ベルギー(61%),オランダ(57%),フランス(54%),カナダ(50%),ドイツ(49%),イギリス(48%)となった(「上手く対処した」と「上手く対処していない」を足しても100%にならない場合もある)。逆に「上手く対処していない」が「対処した」を上回ったのは,韓国(71%),日本(69%),オーストラリア(59%)とスウェーデン(50%),であった。
特に,アジアの国々で「上手く対処していない」との評価が多いのは,コロナの発生源が武漢であるにも関わらず,中国が有効に抑止することができず,近隣国あるいは世界でパンデミック(大流行)が発生したとの考えによるものであろう。
証券(株券)を購入する場合,アメリカあるいは中国どちらの経済的関係を選択するか(Growing shares choose economic ties with U.S. over ties with China)のについて,4カ国のアンケートデータが掲載されている。カナダ(87%),日本(81%),韓国(75%),オーストラリア(59%)はアメリカの株を選択すると回答した。
一方,米中どちらとの経済的結び付きに,より多くの価値を見出すかについて,「アメリカを選ぶ」との回答はそれぞれ,カナダ(87%),スウェーデン(82%),日本(81%),韓国(75%),オランダ(69%),イギリス・イタリア(66%),ベルギー・ギリシャ(64%),スペイン(62%),フランス・ドイツ(52%),台湾(49%),ニュージーランド(45%),シンガポール(33%)の順位であった。
唯一シンガポールは49%が中国を選びアメリカのそれを凌駕した(アメリカと中国を足しても100%にならない場合もある)。シンガポールは華人が多いことからこうした結果になったものと考えられる。
中国の習近平国家主席を「信頼するか」の問いについて,「信頼しない」を選んだのは,日本・スウェーデン(86%),韓国(84%),アメリカ・オーストラリア(82%),スペイン(78%),ドイツ・ランス(77%),ベルギー(76%),オランダ・ニュージーランド(73%),イタリア(72%),イギリス(70%),台湾(68%),ギリシャ(56%),シンガポール(30%)であった。
一方,習を「信頼する」を選んだ国のうち,唯一50%を超えたのがシンガポール(70%)である。大多数の国は習近平を信頼していない。近年,中国の「戦狼外交」の対外恫喝の姿勢から,この評価結果が出たと考えられる。
中国との関係においてアジア太平洋の7カ国・地域に「経済関係の強化」と「人権の促進」いずれを優先するか質したところ,「人権の促進」を選んだ比率はニュージーランド(80%),オーストラリア(78%),アメリカ(70%),日本(54%),台湾(45%),シンガポール(41%),韓国(39%)となった。
逆に,「経済関係の強化」を選んだ比率は,韓国(57%),シンガポール(55%),台湾(39%),日本(35%),アメリカ(26%),オーストラリア(17%),ニュージーランド(16%)となった。韓国とシンガポールは中国における人権より経済関係を重視する割合が多く,その他では「人権の促進」が重視される結果となった。
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