世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2190
世界経済評論IMPACT No.2190

制裁下における北朝鮮の経済発展戦略:暗中模索する第一線の声から

上澤宏之

(国際貿易投資研究所 客員研究員・亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2021.06.14

 北朝鮮経済は制裁とコロナ禍によって厳しい局面を迎えている。世界経済へのアクセスが閉ざされ,アウタルキー経済を強いられている北朝鮮の深刻な実情は,公式メディアの行間から筆者にも伝わってくる。ただその一方で北朝鮮としても手をこまねいているだけではない。今年1月に開催した第8回党大会と翌2月の党中央委員会第8期第2回全員会議の決定貫徹に向けて,今年から党創立80周年を迎える2025年まで首都・平壌で毎年1万戸,計5万戸の住宅を建設するという新たな計画を打ち出すなど,経済再建に向けた様々な取組を試みている。特にこの経済再建をめぐっては,第8回大会で「自力更生」路線を中心とした新「5カ年計画」を新たに提唱したことが注目される。その特徴として経済制裁という厳しい条件下でも経済発展を追求する方針を強く打ち出したことが挙げられ,その方法論として「自力更生」の基礎となる「物質技術的土台」を強化する「整備・補強戦略」の推進を表明した。これは制裁などの外部的要因に影響を受けない経済構造の確立を目指すとして「国家経済の自立的構造」や「内的潜在力」の強化などを謳っており,自らに内在すると主張する技術・資源などの「主体的な力」と「内的動力」に経済発展の活路を見出そうというものである。

 それでは北朝鮮は上記方針に基づき実際にどのような取組を進めているのか,今回のコラムでは党機関紙『労働新聞』で連載中の特集記事「党大会貫徹に向けた紙上論壇」(第一線の工場・企業所のモデル事業や成功例などを読者と共有するコーナー)から筆者の印象に残った事例を取り上げてみたい。

 その第一として再資源化(リサイクル)と国産化の推奨を挙げてみたい。「紙上論壇」では,たとえば,会寧市の木材加工工場が従来輸入に依存していた接着剤の代わりに廃ビニール(などの遊休資材)を再資源化することで耐水合板(ラワンべニア)を生産し,国産化と再資源化を同時に実現したことや,新義州紡績工場が住民から集めた綿クズを打綿機の技術改良を通じて生地を新たに生産し,「内部予備の100%利用」を達成したことなどを成功例,模範例として紹介している。この再資源化については,政府が積極的に推奨しており,内閣事務局の朴ソンチョル部長が同論壇への寄稿で「工場・企業所で生じる廃棄物(廃材・端材)を収集,加工処理,再生利用することによって低い原価率で更に多くの物質的富を創造する,経済発展を積極的に推進する重要な事業」と述べ,その意義を強調している。

 またもう一つ興味を引く動きとして,再資源化にあたって「製品の質を落とせば,人民に再資源化に対する否定的な認識を与える」として品質改善運動も同時に展開していることにも言及しておこう。一例を挙げると,普通江靴工場で取り組んでいる廃プラスチックを用いた靴の本底生産では,従来リサイクル材の利用で品質が劣っていたことから,他工場の先進技術を参考にして技術開発に注力した結果,靴の軽量化と品質向上に成功し,原料節約と収益増を共に達成したと伝えている。これは北朝鮮が「我が党の人民大衆第一主義政治を経済建設における実践的成果として崇めるための必需的要求」として品質向上を謳う「先質後量の原則」(量より質を重視)に則ったもので,より高いレベルの循環型経済システムへの転換を目指している様子がうかがわれる。

 第二の取組として経済悪化に対する内的要因の追及を指摘したい。これは「主観的環境の欠陥是正」などとも表現しているが,制裁という不利な外的要因にだけ経済停滞の責任を転嫁するのではなく,従来の経済運営方法や経済事業方式が孕む旧いしきたりや不合理などにその原因を求めるものである。たとえば,南浦市党委員会の金チョルギュ書記は,南浦港での某工事遅延の原因を当初,「資材や資金,労力の不足,つまり客観(外)的条件に問題がある」と認識していたが,「深く分析すると,無窮無尽な(勤労者らの)思想精神力を発動させることができていなかったことが原因」と捉え,「市党委員会で精神力総発動に向けた思想攻勢に取り掛かり,各種経済扇動競演や社会主義競争を通じて革命熱,愛国熱などを躍動させたところ,勤労者らの革命的熱意と気勢が高調し,工事が最終段階を迎えた」と自らの体験談を紹介している。その上で「うまくいかない原因を客観ではなく,徹底して主観的条件から見出すことと,現実に不断に接近して問題解決の方法を探すことで,不利な形勢を有利に転換させることができるという教訓を得た」と話を結んでいる。

 また,山間地帯である慈江道・時中郡の金ミョンサム責任書記は,「穀物収穫量の低迷(の原因)を客観的条件にだけ求め,問題解決に向けた(主観的な)努力を怠った」と省みた上で,「郡の党活動家を農場に派遣し,農場員と膝を突き合わせて討議したところ,郡内で埋蔵量が豊富な泥炭を採掘し,有機肥料を生産・配分するという良いアイディアが湧いた。郡党活動家は郡の発展のため常に苦心,苦悩する革新的な事業気風を確立することを固く決議する」と強調した。さらに内閣の趙ヨンドク局長も「どんぶり勘定式,いい加減に仕事をしていた先の時代の誤った勤務姿勢と完全に決別する」と従来の官僚主義的な姿勢を改めるとし,「経済法則・原理や科学的な分析に基づかない経済事業に徹底して警戒し,克服していく」とその決意を新たにした。

 そして最後の取組として「本位主義」の排除に触れておきたい。「本位主義」とは,機関や企業などが自らの組織の利益だけを追い求める行為を意味する。慈江道農村経理委員会の金スンイル副委員長は「穀物収穫増の経験と技術を広く交換することは,国の農業発展にとってとても意味がある」と指摘した上で,「重要なことは本位主義をなくすことである。各地域や単位(組織において分野別に区分された基本的な部署)では国家的利益を優先する立場から協同し,優秀な経験を広く共有すれば収穫増に向けて更に活気をもって前進することができる」と強調した。また,前述した内閣事務局の朴部長も同様に,「全ての単位が本位主義の風を吹かさず,国家的立場に基づき優れた経験を広く共有しなければならない。良い工法,良い経験は決して秘密にしてはならない。国家の利益の中に単位の利益があり,国家の発展に単位の運命がかかっている」と説いた。その上で同論壇では多くの寄稿者が「技術伝習会」「経験交換会」などの開催や「モデル単位の一般化」(汎用化・標準化)を通じて模範・成功例のコツや秘訣を広く共有することと,それらの習得に向けて「社会主義的集団主義」を基にする「追い付き追い越し・見習い・経験交換」運動への取組を更に強化することを繰り返し訴えている。

 以上,北朝鮮が強調する「主体的な力」と「内的動力」をベースとした経済発展戦略の一端を駆け足でみてきた。こうした取組は従来行われてきたものであるが,先に開催した党中央委員会第7期第5回総会(2019年12月)や第8回党大会で,その場しのぎではない恒久的な戦略として潜在生産力・内的動力の総動員に再び焦点が当てられるなど,ここに来て経済発展の原動力として再資源化を始め,生産財の国産化,生産設備の復旧,経済管理(運営方式)の合理化,科学技術の振興,専門人材の育成などの内包的な発展基盤の役割がより高まってきている。そこからは制裁とコロナ禍で対外経済関係への展望を示すことができない状況下で,経済全体の効率化や競争・イノベーションの創出を通して経済の活性化につなげたいという切迫した状況もうかがわれる。

 「紙上論壇」では「新5カ年計画の初年度から実質的な変化,実際的な成果を実現する」「新たな革新,大胆な創造,不断なる前進」「継続革新,継続前進,連続攻撃」など多彩なレトリックが乱舞している中,上述した「内的動力」が実際に北朝鮮経済にどのような効果をもたらすのか,今後の注目すべき視点である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2190.html)

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