世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
台湾半導体受託企業の増産計画
(九州産業大学 名誉教授)
2021.06.07
半導体ファウンドリー(受託製造会社)の世界ランキング(2020年,オムディア調査)は,TSMCの47%,サムスンの15%,聯華電子(UMC)の7%,グローバル・ファウンドリーズ(GF)の7%,中芯国際(SMIC)の4%,華虹の3%,力晶科技(パワーチップ)の2%,世界先進の1%などの順位である。総額866億9900万ドルである。以下,台湾各社の半導体増産計画を紹介する。
世界最大ファウンドリーのTSMC(台湾積体電路製造)は台湾では「護国神山」と呼ばれ,最近,TSMCの株価上昇で企業の市場価格は世界のトップ10企業に入るまでに達し,市場価格はインテルを凌駕するまでに至っている。TSMCのファウンドリーの世界市場シェアは47%と約半分弱を占め,アメリカ国防省からサプライ部品企業の指定を受け,最新鋭のHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)用半導体チップの84%の市場シェアを掌握している。また,同社はF-35ライトニング II戦闘機,ミサイルなどに搭載する半導体を供給している。
2020年にアメリカ政府の要請により,TSMCはアメリカ・アリゾナ州フェニックスへの進出を決定した。2021年5月4日,TSMCはアリゾナ州に35億ドルの投資計画を明らかにした。2021年から建設工事がスタートし,第1期工場は2024年から12インチ5nmプロセスの量産化を始める。月産能力は2万枚であり,将来にわたり6つのウェハー工場の建設を予定する。6工場が完成した後には月産10万枚を予定する。3番目の工場以降は3nmプロセスの量産化を強化する可能性がある。
4月22日,TSMCの臨時理事会で劉徳音会長は28.87億ドルを投資し,既存の南京工場で月産4万枚の28nm(ナノメートル)ウェハーの拡張生産を発表した。拡張計画によると,2022年後半に量産化に入り,2023年に計画が完成する。米中ハイテク戦争で,アメリカは中国向け半導体の製造・輸出関連の規制があり,特に線幅14nm以下のHPCは制裁の対象になるが,28nmウェハーの成熟プロセスについては中国市場でのニーズが多いため,大目に見てくれるであろうとの報道があった。
最近,Sonyから28nmプロセスのイメージセンサーの月産4万枚の生産が報道された。イメージセンサーとは,光信号をアナログ信号に変換する装置であり,映像信号処理器に使われ,CMOS(相補型MOS)と共にiPhoneの最新製品に搭載される予定である。TSMCは顧客の情報を発表しない方針を堅持していたが,恐らくSonyで大口の受注が入ったためにこの増産計画を決めたと業界は見ている。
過去において,TSMCの28nm生産能力に対して受注量は能力に届かず,最低時は50~60%の時もあった。その後,70~80%に増え,TSMCは顧客確保に努め,顧客に半導体チップを40nmから28nmレベルへのシフトを促すよう優遇価格を提供したこともあった。現在は半導体不足からTSMCの生産予定は飽和状態であり,南京工場の生産ライン拡張に至っている。
その後,『日刊工業新聞』(5月26日付け)が報じたのは,経済産業省の主導によるSonyとTSMCの合弁で,熊本県に1兆円以上の半導体工場を建設する構想である。構想によると,2021年内に両社による半導体製造の合弁会社を設立する。TSMCが主体となり,Sonyグループ以外の日本企業も一部出資し,参加する可能性がある。前工程工場は熊本県・菊陽町にあるSonyグループのイメージセンサー工場近くに工場を建て,自動車や産業機械,家電などに使う線幅20nm~40nmのミドルエンドの半導体を生産するという。線幅40nm以下の工場は国内で初めてとなる。投資の分担はSonyグループが土地・建屋の手当て,TSMCが製造プロセスを受け持つ方向で調整する。パッケージなどの後工程工場も熊本県内に新設する計画である。
Sonyグループの吉田憲一郎社長は,「TSMCとの合弁構想」について,「コメントは差し控える」としながら次のように述べた。「(わが社の半導体は)かなり部分がファウンドリーから調達している。当社にとって,ロジック半導体を安定的に調達するのは大切である。また,一般論として思うのは,ロジックを含めた半導体を安定的に調達できる」。
アメリカ議会で半導体産業の育成に520億ドル(約5兆7000億円)の補助金を提供する法案が審議中である。欧州も半導体などデジタル分野に今後の2~3年で1350億ユーロ(約18兆円)以上の補助金を出資するという。私見として,既にTSMCは4月22日の臨時理事会で南京工場の拡張計画を発表している。それを変更させるには,日本政府はどのぐらいの補助金を提供するのか,出方が注目される。
世界第3位の聯華電子(UMC)はファウンドリーの第2位であったが,GFとサムスンのファウンドリービジネスの参入で一時的に第4位に後退したこともあった。
半導体の不足に対応し,聯華電子は1000億台湾元(約4000億円)を投資し,南部サイエンスパーク内で12インチの12A工場P6(第6期拡張計画)を拡張し,28nm/40nmウェハーの成熟プロセスの生産を計画している。UMCの資金不足のため,サムスンの出資による工場の拡張計画があった。その後。半導体不足に対処して,顧客と長期の受注価格を事前に定めた長期受注契約を締結し,前金を徴収して拡張資金に充当し,サムスンの出資が不要になった。
第7位の力晶(パワーチップ)グループは,2019年5月にファウンドリービジネス部門を力晶積成電子製造(PSMC=力積電)に分社化し,12インチのウェハー工場を移管して改組した企業である。半導体の不足に対応し,力積電は2780億台湾元(約1兆1120億円)を投資し,苗栗県銅鑼で12インチウェハーの2工場を建設する。2021年3月から建設を開始し,2022年9月に装置搬入,2023年の前後に量産化を開始する。これら両ウェハー工場の完成後,月産10万枚のウェハーの予定である。力積電の黄崇仁会長は,「現在の半導体不足は季節要因ではなく,構造的な問題である。特に,液晶パネルやモーターなどの駆動に使われる,電気信号を送るためのドライブICの生産能力の不足が深刻だ」と指摘した。
TSMC傘下の世界先進積体電路(VIS)は9.05億台湾元を投資し,液晶パネル企業の友達光電(AUO)の新竹サイエンスパークL3B工場(TFT製造工場)を買収して,8インチ月産4万枚ウェハー規模の工場を計画している。完成後,世界で5番目の8インチ工場になる。
世界第4位DRAMメモリー製造企業の南亜科技(ナンヤ・テクノロジー)は,新北市泰山南林サイエンスパークに,12インチ10nmウェハー工場を建設する。月産4.5万枚,2021年末に建設を開始し,2023年に完成する計画である。2024年に第1段階の量産化が始まり,2027年に第3段階の投資に入る。7年間の総投資額は3000億台湾元(約1兆2000億円)である。
パソコン大手DellのCEOマイケル・デルは独紙に寄稿し,世界各地に半導体工場を建設しても半導体の不足は数年間続き,需給バランスが保たれるには時間がかかると指摘した。Dellは年間に700億ドルの半導体を調達し,半導体の最も重要な顧客である。半導体の価格が上昇しても,サプライチェーンの確保のために,大量に調達すると示した。
車載半導体の不足が引き金になって,欧米各国は半導体製造工場が台湾と韓国に集中しているリスクを懸念し,半導体を「戦略物資」と見なして,重要度の高いウェハーを国内生産で賄うような動きを示している。
EUのデジタルコンパス(Digital Compass)のトップは,2nmウェハーの製造ラインへの参入を関係先企業に求めたが,多くの半導体企業が否定的な反応を示した。最初に反対したのは世界で唯一EUV(極端紫外線)露光装置を製造できるASML社である。ASML社の関係者によると,2nm製造プロセスの製造ラインを構築するのは月面着陸よりも難しいと表現した。
ヨーロッパ(スイス)半導体製造企業のSTマイクロエレクトロニクスの場合,12インチのウェハーの1工場,8インチと6インチのウェハー工場しか持っていない。実際,同社が成熟プロセス(28nmのレベル)の能力で2nm製造プロセス水準を望むのは,現段階では「月面着陸よりも難しい」と考えられる。
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