世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国は本当に食糧が不足するのか?
(大東文化大学国際関係学部 教授)
2021.05.31
2021年4月に反食品浪費法が施行されるとともに,昨年来より中国の食糧問題に対する注目度が上昇している。この中国の食糧問題について,背景,現状および政府の対応をまとめておきたい。
この問題が注目されるようになったのは,昨年の習近平による食糧浪費に対する国民への警鐘,中国社会科学院によるネガティブな予測,COVID-19によるロシアや東南アジアなどの食糧輸出規制,米中貿易対立などの国際マーケットにおける食糧調達の不安要素,2000年の国内の洪水や干ばつなどの自然災害,昨年来からのトウモロコシや大豆輸入の増加,などが指摘できる。それに加えて,14億人という世界最大の人口を養わなければならないという政府の責任感,1958年から62年の大躍進政策による数千万人規模の餓死の記憶なども中国が食糧問題に危機感を持つ原因として指摘できよう。
しかし,公式データを見る限り,現状では中国はすぐに食糧不足に陥るわけではないし,2020年4月にも政府は小麦と米に関しては中国の人口を一年食べさせるだけの備蓄はあると発表した(Wang 2020)。
トウモロコシや大豆の輸入が増加している問題は,アフリカ豚熱(2018−2020)から生産が復活しつつある養豚業(中国は世界最大の豚肉生産国)にあるようだ(Zhou 2021)。中国産の豚は成育期間が外国種よりも1−4か月長い。したがって養豚業者としては外国種に頼るとともに,高たんぱくの外国産トウモロコシや大豆を飼料として利用する方が生産効率が高い。つまり,中国の食糧不足問題は「飼料不足問題」だともいえる。
だからといって,中国に食糧不足の不安がないわけではない。中国政府は養豚業者にヒマワリの種などの雑穀や他の飼料への代替を促しているが,一部小麦などの主食食糧を飼料に転換するケースも出てきている。そうなると,人が食べる主食が減少する可能性が出てくるので,豊かになるにつれて畜産業(養牛,養豚,養鶏など)が拡大すれば,中国14億人の胃袋にも影響を与えることになろう。この意味で食糧の需給関係はタイトであることは間違いない。
中国はこの問題に対し,党中央1号文件(最も重要度が高い)でも高品質の飼料作物の増産やその確保,基本的な養豚業を守りつつ,農業製品の輸入先の多様化なども模索している(Wang 2021)。また畜産業,飼料作物の技術を海外に依存しすぎているという点から,種苗産業や畜産技術の国内開発が必要だと認識しており,14次5か年計画でも重要視されているのである。
[参考文献]
- Wang, Orange(2020) ‘China food security: how’s it going and why’s it important?’, South China Morning Post, 29 November
- Wang, Orange(2021) ‘China’s food security at core of Beijing’s new five-year rural-revitalisation plan’, South China Morning Post, 13 February
- Zhou, Cissy(2021) ‘China food security: why the nation’s ‘food crisis’ is more of a livestock feed challenge’, South China Morning Post, 27 April
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