世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2051
世界経済評論IMPACT No.2051

資本主義経済社会の制御システム:国民と企業を守る日本を創れ

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.02.15

ジャパンライフ事件

 2020年9月18日,磁気治療器の販売預託商法ビジネスの「ジャパンライフ社」山口元会長ら14人が詐欺容疑で警視庁の合同捜査本部により逮捕された。7千人以上の客から金を騙し取ったという。その被害総額は2,100憶円に上る。預託商法は,商品などを販売すると同時に顧客から預かり,運用したり第三者に貸し出したりして利益を還元する仕組み。販売代金の支払いという形で事実上の投資を募るもので,高配当や元本保証をうたう。しかしそれは実行されなかったようで,2003年ころから政治家や有名人を巻き込んで,この商売をしていたが,2014年消費者庁が行政指導し,2017年に消費者庁の4回目の処分により銀行からも取引停止処分を受けて倒産。国は見て見ないふりをしていたようだ。被害者は泣き寝入りになりそうである。

 こうした詐欺事件が日本では頻繁に起こっている。大きな詐欺事件でも,1973年の協同飼料事件,1984年のインサイダーによる上場株価のつり上げと賄賂のリクルート事件,1985年の豊田商事事件,2008年のワールドオーシャンファーム事件,2011年の安愚楽牧場事件,2018年のケフィア事業振興会事件などのもが頻発している。

 問題なのは,今日の日本の法制度では,詐欺師によって盗み取られた金は被害者には殆ど戻らず,泣き寝入りさせられていることである。詐欺をした張本人は,数年間刑務所に入るだけで大金を手にすることができるために,詐欺や犯罪は後を絶たない。しかしこうした詐欺事件は,膨大な国家の富,国民の富を奪い取ってしまい,日本の国力を弱体化してきている。

資本主義経済社会の本質

 資本主義経済社会は,アダム・スミスが言ったように,個々人が自分の利益を求めて経済活動し,それが総合されて経済社会が成りたち存続するものである。従ってこの資本主義経済活動は,ほっておくと投機がおこり,経済はバブルになり,恐慌になったりする。同時に人を騙してでも儲けようとする詐欺師が横行する。アダム・スミスは『国富論』の前に『道徳感情論』を書いた。利己的に利益を追求する人間は,前提として,「道徳」を持ったものであり,そうであれば「利益への道」と「道徳への道」は調和するとスミスは言った。しかし実際にはそのような理想的な経済社会は存在したことがない。人間社会である限り,この資本主義経済社会には,「強欲な売り手」と「騙され易い買い手」が存在する。詐欺師,泥棒はいくら摘発し,排除しても湧き出てくる。石川五右衛門が言ったという「浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」である。

 資本主義的経済活動は,戦争などで外敵に襲われると国の経済活動は破壊される。そこで資本主義経済社会は最初から,外敵と闘って平和を守り,内敵の詐欺や犯罪を摘発・排除するために「国家」を創った。つまり国家は,平和を維持し,資本主義経済活動を守り,国民を守ることを使命として創られたのである。国家が守ってくれることに対して国民や企業は国家に税金を払う。国家は,国の力を蝕む「内敵」という詐欺師,泥棒,レントシーカー(利権屋),政商などを排除して,国民や企業を守る。

 しかし近年のグローバル化のなかで,国民や企業を守らない国家が出てきている。最近の日本はそうである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2051.html)

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