世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
2020年代の中国経済「新常態」
(亜細亜大学アジア研究所 教授)
2021.02.08
2020年の中国の実質経済成長率は2.3%と,主要国中,唯一のプラス成長を実現した。2020年は中国にとって決算年である。本来,6%弱の成長率で達成可能だったGDPの2010年比倍増目標はコロナ禍で未達に終わったが,そこはスルーし,景気の早期回復に胸を張った。またGDPの100兆元大台乗せも分かりやすい成果だ。次のGDP倍増目標(200兆元)は2035年であり,年平均の成長率は4.8%程度になる。
コロナ禍による各国経済への影響の差から,米中のGDP逆転が早まるとの予測が出始めている。英国のシンクタンク,経済ビジネス・リサーチ・センターは,コロナ前の予想より5年以上前倒して2028年とした他(日本経済研究センターも),人民元レート次第(1ドル=6元を想定)ではさらに2年前倒しで2026年との予測も出始めた(野村證券)。
米中逆転の時,中国社会はどのようになっているのか,2020年代の「新常態」を考えておきたい。
最も顕著なのは人口動態の変化である。中国の人口ピークは2033年頃に15億人前後と長期的に予測されていたが,最新の国連中位推計(World Population Prospects 2019)では2031年に14.64億人としている。しかし,これは合計特殊出生率1.6の水準が続くことを前提にしており(同出生率の政府公式発表は2006年以降なし。2016年の全面的な二子解禁当時で1.6前後,その後1.5近くに低下していると推測される),中国の研究者からは2029年の14.42億人をピークに減少を始めるとの予測や,2027年に前倒しになる可能性も指摘されている。
すなわち,中国が米国のGDPを上回るのとほぼ軌を一にして中国の人口減少が始まるということだ。
生産年齢人口(16~59歳)で言えば,2019年8.96億人とすでにピークの2011年から2700万人減少している。60年前の大躍進期(1958~61年)に出生数が少なかったことからここ数年の減少数は小幅だったが,1960年代から1970年代前半の大量出生世代(5年で1億人増加)がこれから退職期を迎えるため,急激な生産年齢人口の減少が予想される。
農村部から都市部へ労働力移動である流動人口は1982年の670万から1990年2135万人,2000年1.02億人,2010年2.21億人と急拡大したが,2014年の2.53億人をピークに減少に転じ,2019年には2.36億人だった。
都市と農村と言えば,両者を厳格に区分する戸籍制度の弊害が指摘されるが,2014年以降都市区分の調整と戸籍取得条件の緩和が進められた。今や常住人口300万人以下の都市(蘇州や厦門などが該当)では戸籍の取得制限は全面撤廃,300万~500万の都市(西安や杭州など)でも取得条件が大幅に緩和された。それ以上の都市でも社会保険の納付や居住年数を主としたポイント制が主で,学歴や職業など以前重視されていた条件は少なくなった。
戸籍制限による低賃金労働者の流入規制的な意味合いは薄れ,逆に,日本における外国人労働者の受け入れと同様,地方(農村部)からの労働力がなければ都市部でのサービス提供が維持できず,中国国内でその奪い合いが生じているのである。
近年,都市部の新規就業者数は目標(1100万人)を上回る1300万人以上を達成し,失業率も目標(登録失業率4.5%以内)を下回って推移しているが,これも労働需給ひっ迫によるものと推測できる。都市部で当たり前になっている宅配やデリバリーなど大量の労働力に頼ったサービスは今後立ち行かなく可能性もある。
こうした人口動態に伴う新常態を考えれば,中国社会における無人化,AIへの傾斜は加速せざるを得ない。これらが持続的な成長のカギを握る大きな要因となることは疑いないだろう。
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遊川和郎
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